講演情報
[P6-04]対人関係の躓きや自己表現の苦手さを抱えた自閉スペクトラム症(ASD)児に対してPersonal Narrativeを育てる介入を行った報告
*湯浅 美琴1 (1. JAとりで総合医療センター)
【はじめに】
Personal Narrative(以下、PN)とは、自分自身が経験したあらゆる経験についての語りのことであり、自己の経験に意味を与え内的な世界を構築する営みである(Bruner,1986)。PNは子どもの自己の形成や他者理解を促し、心の理論課題と正の相関がある(岩田,2001 J Dunn et al.1991)。今回、対人関係に躓きを抱えたASD児に対してPNを育む介入を行った経過を報告する。
【症例】軽度知的障害、ASD、発達性協調運動障害、不安障害と診断された、支援級に在籍する生活年齢8歳の男児。対人関係の齟齬を主訴にST開始となった。WISC-Ⅲは、FIQ56、VIQ56、PIQ65であった。質問応答関係検査は5歳台で、自己経験の語りは断片的な事実の羅列だった。遊びに誘えない・加われない、自分の考えを伝達できない、日記が一行も書けないなど、対人関係の躓きや自己表現に関する困りごとが目立った。
【病態解釈】児の困難さの背景には、PNの未熟さがあると考えた。自己形成、他者理解が育たず、対人関係の躓きを引き起こしている。さらに、この根源には、身体性の問題を基盤とした予測の構築と修正の困難さがあり、「身体性の問題→予測の構築・修正の困難→ PNの未熟さ」という連鎖が仮定される。単に語るのではなく、多感覚情報の変換・統合を行いながら自己経験や情動と結びつける介入が必要と考えた。
【指導と経過】月1回(60分)の介入を12ヶ月実施した。初期は、自己身体位置を他者身体位置に変換する視点取得課題、およびメンタルローテーション課題、行為場面の系列絵を用いて体性感覚情報に重点を置いた解読課題を行った。体性感覚情報の処理が可能になったところで、表情・身振りの絵カード、表面素材を使用し、対話を通してエピソードや感情を想起させ、自己経験の語りを構築・伝達する課題を追加した。初めは、何も表出できないことが多かったが、次第に過去の経験を参照できるようになった。12ヶ月経過時、質問応答関係検査は6歳台となっり、簡単な日記が書けるようになったほか、自分の状態や考えを表現することが増えた。
【考察】PNの育ちが、児の自己理解を育み自己表現を増加させたと考える。今回は質的変化の記述が主となった。今後は変化を定量的に捉える方法を検討したい。
【倫理的配慮 説明と同意】本人・家族に説明し書面にて同意を得た。
Personal Narrative(以下、PN)とは、自分自身が経験したあらゆる経験についての語りのことであり、自己の経験に意味を与え内的な世界を構築する営みである(Bruner,1986)。PNは子どもの自己の形成や他者理解を促し、心の理論課題と正の相関がある(岩田,2001 J Dunn et al.1991)。今回、対人関係に躓きを抱えたASD児に対してPNを育む介入を行った経過を報告する。
【症例】軽度知的障害、ASD、発達性協調運動障害、不安障害と診断された、支援級に在籍する生活年齢8歳の男児。対人関係の齟齬を主訴にST開始となった。WISC-Ⅲは、FIQ56、VIQ56、PIQ65であった。質問応答関係検査は5歳台で、自己経験の語りは断片的な事実の羅列だった。遊びに誘えない・加われない、自分の考えを伝達できない、日記が一行も書けないなど、対人関係の躓きや自己表現に関する困りごとが目立った。
【病態解釈】児の困難さの背景には、PNの未熟さがあると考えた。自己形成、他者理解が育たず、対人関係の躓きを引き起こしている。さらに、この根源には、身体性の問題を基盤とした予測の構築と修正の困難さがあり、「身体性の問題→予測の構築・修正の困難→ PNの未熟さ」という連鎖が仮定される。単に語るのではなく、多感覚情報の変換・統合を行いながら自己経験や情動と結びつける介入が必要と考えた。
【指導と経過】月1回(60分)の介入を12ヶ月実施した。初期は、自己身体位置を他者身体位置に変換する視点取得課題、およびメンタルローテーション課題、行為場面の系列絵を用いて体性感覚情報に重点を置いた解読課題を行った。体性感覚情報の処理が可能になったところで、表情・身振りの絵カード、表面素材を使用し、対話を通してエピソードや感情を想起させ、自己経験の語りを構築・伝達する課題を追加した。初めは、何も表出できないことが多かったが、次第に過去の経験を参照できるようになった。12ヶ月経過時、質問応答関係検査は6歳台となっり、簡単な日記が書けるようになったほか、自分の状態や考えを表現することが増えた。
【考察】PNの育ちが、児の自己理解を育み自己表現を増加させたと考える。今回は質的変化の記述が主となった。今後は変化を定量的に捉える方法を検討したい。
【倫理的配慮 説明と同意】本人・家族に説明し書面にて同意を得た。
