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[00哲-口-01]伝統か現代か伝統的な武術訓練場における意味の生成

*李 恩熙1 (1. 日本体育大学大学院)
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資本主義が浸透する現代において、武術訓練場の空間は大きく変容しつつある。鉄骨構造やガラス張りのファサードをもつ武術訓練空間は、資本の要求に応じて複製可能なものへと変質している。こうした空間の均質化は、武術文化の歴史的文脈を断絶させ、実践者を身体感覚の鈍化と文化的アイデンティティの危機に陥らせている。一方で、中庭住宅に点在する伝統的な訓練場は、独自の空間を通して武術の精神を伝えている。
 本研究の目的は、現代の武術訓練場と比較して、伝統的な武術訓練場がいかにして建築空間と身体的実践の相互作用を通じて、物理的次元を超えた意味を構築しているのかを明らかにすることである。
 まず、現代の武術訓練場における「空間の断絶」である。資本主義に基づき、現代の武術訓練空間は商品化され、精神性を喪失した空虚な場所と化している。ボードリヤールが指摘したように、現代空間は複製物とシミュラークルに満ちた意味の喪失を伴う空間となっている。
 次に、伝統的な武術訓練場の空間的存在である。ハイデッガーの「住居」という概念は、伝統的建築空間が「天地神人」によって意味世界を開示する機能を担うことを強調する。この観点から見ると、中国の「家」思想の影響を受けた伝統的訓練場では、方位の配置、中庭の構造、象徴的要素が実践者に親密感を与え、空間形式と精神的価値が融合し分かち難く結びついている。
 最後に、実践者の身体的経験と空間的意味の生成である。メルロー=ポンティの身体と世界との一体性によれば、身体は空間を理解する媒介であると同時に、意味を生み出す主体でもある。武術実践者は、歩法、姿勢、呼吸といった身体的動作を通じて訓練場の空間と関わり合い、場所の意味を自己の経験として内面化していく。
 したがって、現代の訓練場に対し、伝統的な武術訓練場は単なる物理的な場所にとどまらず、実践者に強い帰属感、アイデンティティ、存在の意味を提供している。

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