講演情報

[101-111]認知症とともに生きる〜備えたい理念と知識〜

講師:大石 智 さん(北里大学医学部精神科学)
座長:神保 武則 先生(北里大学病院リハビリテーション部)
毎年9月は認知症月間です。この時期は認知症への関心、理解を深めるためのイベントが世界各国で行われます。最近ではメディアを介して9月に限らず認知症にまつわる話題に触れる機会が増えました。こうして社会は私たちが認知症への関心を抱きやすい構造を備えるようになりました。それでは社会と社会を作る私たちは、認知症への理解を備えているでしょうか。
社会が認知症への理解を備えたら、あらゆるインフラ、サービスは認知症のある人が利用しやすいものになり、失敗をして自尊心が傷つくことは減るはずです。私たちが認知症への理解を備えたら、無自覚なまま発せられた言葉で認知症のある人のこころが傷つくことは減るはずです。診断されても自ら積極的に援助に繋がり前向きになれそうです。そうして認知症のある人が生きやすい時代が到来するはずです。しかし診療をしているとその時代にたどり着けてはいないことに気づきます。認知症への関心は抱かれやすくなったようですが、理解は十分とは言えません。それでは認知症への理解を深めるためにはどうしたら良いのでしょうか。
そのためには自分の中にある認知症へのスティグマ(負の決めつけ、ラベリング)に気づく必要があります。認知症のある人の声と語りに触れることは、認知症のある人の心情や可能性を知り、自分の中にある認知症へのスティグマに気づく機会になります。認知症について考える、表現する、語り合う際に望ましい言葉を選ぶことも大切です。言葉を用いた人、言葉を見た人、聞いた人の中にあるスティグマを弱める力になります。望ましい言葉の原則を知ることは、自分と社会にある認知症へのスティグマを弱める力になります。書籍やSNSには認知症へのスティグマを強める言葉が潜んでいます。こうした言葉、表現を鵜呑みにしないリテラシーを備えたいものです。そしてさらに認知症について理解を深めたい時、残念ながら医学は力不足です。認知症
は生活に影響を与えます。ですから診断の時も、診断後の暮らしのためにも、生活を見て、考えて、強みを活かし、苦手を補う視点が欠かせません。それを教えてくれるのが作業療法学です。この市民講座は作業療法士の皆さんが集まる会によって開催されます。皆さんと一緒に作業療法士さんについて知り、作業療法士さんの力を知る人が増えていくことは、認知症とともに生きやすい社会に近づくための大きな力になるはずです。