講演情報

[101-1450]講師:大瀧 亮二 先生(東北福祉大学健康科学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)
座長:早川 裕子 先生(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター)

脳科学や医工学の進展,さらにはこれらの融合によって,脳卒中後上肢麻痺に対するリハビリテーション実践は進化を遂げている.近年では,人工知能(AI)やロボット技術を応用した新たな手法が登場しているが,それらを臨床に適切に導入するためには,根拠に基づく実践(EBP)の視点が不可欠である.EBPは,科学的根拠のみならず,対象者の病態や環境,価値観,療法士の経験を総合的に考慮し,最適なアプローチを導くものである.
病態理解においては,運動麻痺や感覚障害などに加えて,自己身体に向けられる注意である「身体特異性注意」という新たな視点にも注目したい.身体特異性注意は実生活の麻痺手使用量と関連があることが報告されており(Otaki, 2022),麻痺手使用の促進のために多角的な病態理解が求められる.
また,予後予測では,従来の臨床指標に基づく方法に加え,T1強調画像を用いたdisconnectome解析といった先進的な脳画像解析法も登場している.この手法は,脳内ネットワークの損傷を可視化・定量化し,重症例や高次脳機能障害の予測にも応用可能である.
さらに,手指機能に対する新技術として,運動意図を筋電図から読み取る外骨格型ロボットMELTzや脳波を活用したBMIなどの先進技術も臨床現場で導入が進んでいる.
本講演では,上肢麻痺の病態理解,予後予測,介入戦略に関する最新知見を紹介し,「脳と上肢」をめぐる科学と実践の観点から本領域の未来を考える機会としたい.