講演情報

[102-1450]次世代の作業療法士を育成する現場での臨床教育
講師:坂本 安令 先生(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション部)
養成教育におけるScience and Sustainability〜内なる変化への抵抗
講師:奥原 孝幸 先生(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)
学生視点から考える「教育」の本質 O T養成校における「教育」のあり方
講師:菊池 利花 さん(日本作業療法学生連盟元理事 北里大学医療衛生学部3年生)
臨床現場から考える専門性と継承
講師:藤本 一博 先生(茅ヶ崎中央病院リハビリテーション科)

座長:鈴木 久義 先生(昭和医科大学保健医療学部リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

次世代の作業療法士を育成するための現場での臨床教育で私たちができること
―中堅からベテラン作業療法士の卒後教育の現状と課題―
坂本 安令 先生(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション部)

作業療法士(OT)は、常に変化する医療・福祉・社会環境の中で専門的な実践を行う職種である。そのため、知識・技術・価値観の更新は専門性の維持に不可欠である。しかし、経験年数が長くなるほど、臨床実践が固定化されやすく、自己研鑽や外部との接点が減少する傾向がみられる。これは、いわゆる「時代の変化に取り残されるリスク」である。
近年の作業療法の動向を見ても、エビデンスに基づく実践(Evidence-Based Practice:EBP)の推進、テクノロジー(ICT・AI・遠隔リハなど)の導入、多職種連携や地域包括ケアの深化が進んでいる。これらの変化に対応するには、常に学び直し(リスキリング)やアップデートが求められる。ところが、中堅やベテランのO Tは、かつての成功体験や長年の経験に基づいた「自分のやり方」に固執してしまい、結果的に新しい知識や技術に対して受動的または否定的になることがある。さらに、これらは若手世代との間にギャップを生じさせる。若手のOTは、大学教育でEBPや臨床推論、多職種連携などを体系的に学んでおり、時代に即した価値観を持って現場に入ってくる。一方、ベテランが自己流や経験則のみに基づいた実践を続けると、専門性の共有や世代間の協働が困難となり、チーム医療や教育の質の低下につながる可能性がある。
このリスクに対処するためには、ベテラン自身が自己の実践を相対化し、継続的学習の重要性を再認識することが第一歩となり、ともに学び合うことが次世代の作業療法士の育成につながる。世代を超えて学び合い、共に成長していく文化こそが、作業療法の専門性と社会的信頼の維持に不可欠である。


養成教育におけるScience and Sustainability〜内なる変化への抵抗
奥原 孝幸 先生(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

sustainableな作業療法(士)の初期段階である養成教育段階が、私の担当である。
作業療法士教育は、1963(昭和38)年にわが国最初の理学療法士および作業療法士の本格的な養成施設である国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院で始まり、2000年代に入って大学教育が始まり、2018年(平成 30) 年の理学療法士作業療法士養成施設指導ガイドラインにおいて現在の養成教育体制へと発展し、62年が経過している。その中で、作業療法(士)はまだまだmajorとは言えないが、minorの域は脱している。
その間、時代は急速に流れ、社会も大きく変化している。SDGsやSustainabilityという言葉もそういう変化の中から生まれてきたのだろう。
それは、完成形を作ってそれを維持するのではないことは明白である。持続させるためには周囲の環境に応じて、作り直し、よりよく変化していかなければ消滅する。
我々は、作業療法(士)を残したい。残すためにはどうしたらいいか、どうし続けたらいいか。その前に先人たちからしっかりと受け取ったろうか、それをそのままの部分と変えていく部分がある。それはどのように社会が変わっても変えない方がいいもの、社会の変化に合わせて変えていく部分がある。それが成長ということである。社会や時代の変化に応じて、守るものは守り、変化し続けていくことが重要である。
それは、理念は守り、実践は変化させていくことだと考える。ただ変化には痛みを伴う。その痛みについてを話したい。


学生視点から考える「教育」の本質 O T養成校における「教育」のあり方
菊池 利花 さん(日本作業療法学生連盟元理事 北里大学医療衛生学部3年生)

作業療法養成校における教育は、単なる知識伝達に留まらず学生が臨床現場で活躍できる能力を育むことに本質がある。本セッションでは医学モデルと作業モデルのバランス、臨床実習における課題、学生のモチベーション維持、そして臨床へのバトンパスという4つの観点からそのあり方について考察する。
1.現状の養成校教育では医学モデルと作業モデルを個々で学習している場合が多い。学生が作業モデルを統合的に理解し、臨床応用する機会が不足している可能性があると考える。両モデルの適切なバランスが取れたカリキュラムと、それらを統合的に学べる教育方法が求められる。座学から臨床実践への流動性のある教育が必要である。
2.臨床実習は学生が知識を実践に結びつける重要な場であるが、指導者間の指導方法の差異や学生の主体性のが課題として挙げられる。また、なぜ実習に行くのかという目的を明確化する必要がある。
3.学生のモチベーション維持も大きな課題である。日々の課題や授業を淡々とこなしていくと徐々に学びの本質的な意味が消え、モチベーションの低下につながる。また、各養成校におけるモチベーション格差も感じられる。
4.卒業後、学生がスムーズに臨床へバトンをつなぐためには養成校での学びと実際の臨床現場のギャップを埋める教育が必要である。どのようにこれらの課題と向き合い、作業療法という分野をサステナビリティなものにするか学生の視点から探求したい。


臨床現場から考える専門性と継承
藤本 一博 先生(茅ヶ崎中央病院リハビリテーション科)

作業療法とは作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業に焦点を当てた実践には、手段としての作業の利用と、目的としての作業の利用、およびこれらを達成するための環境への働きかけが含まれる。これは、日本作業療法士協会が2018年に提示した作業療法の定義の一部である。作業療法の専門性はまさにこの「作業の活用」にあるが、臨床実習や現場では機能訓練を主とし、作業を活用しない実践が依然として散見される。
WFOT(世界作業療法連盟)が2014年に発表したポジションステートメント「Scope and Extension of Practice」には、以下の一文がある。
“Functional training may be included within occupational therapy practice; however, it is considered a peripheral knowledge and skill, not central to occupational therapy practice.”
すなわち「機能訓練は作業療法に含まれることがあるかもしれないが、それは中核ではなく、周辺的な知識・技術と見なされる」と明言している。
近年、作業療法は「作業を主語とする実践」へとパラダイムシフトを遂げつつあるが、その変化は現場に十分浸透しているとは言い難い。これは作業療法士個人の価値観、また働く場の文化や制度的背景に左右されていると考えられる。機能訓練中心の実践を行う作業療法士の存在は否定しないが、その業務は他職種によって代替可能ではないか、という問いが浮かぶ。こうした現状に、臨床家として専門性の危機を感じている。
そこで私たちは、「作業とは何か」を改めて問い直すため、教育と臨床現場を「作業を主語」に接続するツールとして、CROT(Clinical Reasoning OT Tool)シリーズを開発した。CROTは、作業療法における5つの「物語的」「科学的」「実際的」「倫理的」「相互交流的」リーズニングを踏まえた思考を促すツールであり、特に「物語的リーズニング」の思考を強化する設計となっている。
本セッションでは、こうしたツールを紹介しつつ、作業療法が未来においても価値ある専門職であり続けるための教育と臨床の在り方について、共に探求したい。


鈴木 久義 先生(昭和医科大学保健医療学部リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

本教育講演では、4人の演者による話題提供を通じて、作業療法/作業療法士がいかにして持続可能であり得るのか、を議論したいと考えております。
その議論の方向性は切り口によってさまざまですが、例えば、①学的体系、②臨床実践、③卒前・卒後教育、④人材確保と待遇改善、等の論点が即座に浮かびます。
①学的体系、も持続可能性を議論するには十分な論点であると言えます。作業療法が焦点を当てる作業自体が超高齢化、多文化化、AIやITといった技術革新に伴って以前とは大きく異なるという事実があります。一家に一台黒電話の時代から一人一台スマートフォンの時代と言えば蛇足でしょうか。
また、「理論なき実践は盲目であり、実践なき理論は空虚である」で有名なK.レヴィンの言を待つことなく、学的体系は臨床実践や卒前・卒後教育と連動している必要があります。
さらに、他領域との協働です。これは社会諸科学と多くの接点を有している作業療法学の得意とするところではありますが、今まで協働していなかったであろう領域、例えば数学とか文学とか宗教学といった学問領域との異種交配を行うことによって作業療法の理論的柔軟性や新たな展開が促進されるかもしれません。
とにかく、当日は上記の論点以外にもさまざまな論点が提出される可能性があります。混乱して交通整理ができないかもしれません。ただ大変楽しみでもあります。皆様もどうぞご期待ください。