講演情報

[102-1630]作業療法研究における共創の可能性 〜立場を越えて“同じ景色”をみるとき〜
講師:川口 敬之 先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)、加藤 伸輔 先生(ピアサポートグループ在)   

作業療法研究における共創の可能性 〜立場を越えて“同じ景色”をみるとき〜
川口 敬之 先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)

近年、疾患・障害のある当事者や市民が研究に参画し、研究者とともに取り組むことを表す「患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)」が国際的に推奨され、その意義がますます大きくなっている。特に精神保健領域では、専門家主導で開発された薬剤や心理技法の治療効果が限定的であることから、パラダイムシフトの必要性が指摘されている。PPIは、異なる立場同士の共創による学術的価値の創造やパラダイムシフトを推し進める方策として期待されており、研究における優先課題の特定や適切なアウトカムの選定などを通じた研究および実践の質向上に貢献することが示されてきた。
PPIの観点でみた場合、作業療法の現状はどうだろうか。作業療法には元々パーソン・センタード・アプローチの文脈や、当事者とともに場や活動を創り上げていく視点があり、それらが作業療法の基盤にある。そのため、PPIの潮流と相まって共創に基づく研究や実践に取り組むことは作業療法の現状を変革するきっかけとなる可能性がある。今こそ、各々の取り組みを見直し、当事者の大切にしている作業の実現に向けて、当事者とともに作業療法自体を探求し直すときではないだろうか。
本講演では、研究や実践において「立場の違いを越えて“同じ景色”をみること」のイメージを共有しながら、PPIや共創の観点で作業療法のあり方を再考する緒としたい。


経験の語りから生まれる研究のかたち
加藤 伸輔 先生(ピアサポートグループ在)

研究の現場で「患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)」が重視されるようになり、当事者として声を届ける機会が少しずつ広がってきた。自身の障害に関する生きられた経験(lived experience)をもとに研究者と共創する中で見えてきたのは、立場の違いによって生じる視点のズレと、そのすり合わせに必要な対話と時間である。
PPIには、現場に根ざした問いを引き出し、実践に活きる研究をかたちづくる力がある。異なる立場同士が共創することで、研究のアウトカムがより意味のあるものとなり、成果が社会や実践に反映されやすくなる。
一方で、共創の名のもとに当事者の語りが形式的に扱われたり、役割の対等性が保たれなかったりすることも少なくない。こうした立場の違いに向き合い、対話を重ねながら信頼にもとづいた関係を築いていく姿勢が求められる。共創とは、単なる作業の分担ではなく、問いや意味をともに探っていく営みと言える。
本講演では、研究や実践の現場での共創を通して見えてきた、PPIの意義と留意点を共有し、作業療法におけるこれからの共創のあり方をともに考える機会としたい。