講演情報

[10401-07-01]ADLに介助を要するジスキネジアを呈した方に,COPMにて大切な作業の抽出とアイデンティティの形成および満足度が向上した経験

*中尾 桃果1、石川 恵美子1 (1. 医療法人社団博慈会青葉さわい病院)

キーワード:

COPM、作業、アイデンティティ

【はじめに】Christiansenは,「作業はアイデンティティを形成する機会となる」と主張し,また幸福を促進させる要素として,満足なアイデンティティの実現を挙げている(Christiansen,1999).今回,カナダ作業遂行測定(Canadian Occupational Performance Measure:以下COPM)にて大切な作業を抽出して介入した結果,アイデンティティが形成され,満足度が向上した事例を経験したため以下に報告する.今回発表に際し,事例より書面にて同意を得ている.
【事例紹介】60代女性,転倒により第一腰椎圧迫骨折受傷.受傷してから約1か月後,回復期リハビリテーション病棟入院.病前生活は夫と二人暮らし.40代にジスキネジアを発症してから介助を要し,現在はほぼ全ての日常生活動作に介助を要していた.自身で寡黙な性格と語り,夫について「心の支えではあるが夫は心配性で,手伝いができず閉じ込められているような感じ」と語っており,やりたいことが出来ない状態であった.
【初回評価】COPM:入浴(重要度8遂行度1満足度1)更衣(重要度7遂行度2満足度2)調理(重要度5遂行度1満足度1),NRS:起居9歩行7,FIM:73点(運動42点,認知31点)であった.腰痛により更衣と入浴全介助,サークル歩行見守り,連続100mで腰痛と疲労を認めていた.
【介入経過】介入4週目でNRS7→5に改善し,サークル歩行自立となった.歩行能力向上に伴い,調理の介入について夫に確認.夫は「してもいいけど転ばなければいい,自分がやります」と転倒リスクを懸念していた.8週目でフリーハンド歩行自立となり,転倒リスクが軽減したため,連続立位作業が可能と判断し,調理を実施.ジスキネジアと圧迫骨折に配慮し,難易度が低く事例の希望であった卵焼きとウインナーを焼く課題とした.腰痛や疲労がみられた際は,座れるよう椅子を設定した.連続30分間立位で作業可能.完成後「久々に楽しかった」「出来ないと思っていたけど,出来て嬉しかった」と語られ,その後の介入で「家では自分のことを喋らなかった」「こんなに明るい性格だと思わなかった」などの語りがあった.
【結果】COPM:入浴(遂行度1→10満足度1→10)更衣(遂行度2→10満足度2→10)調理(遂行度1→10満足度1→10),FIM:73→101点(運動68点,認知33点)に向上した.
【考察】COPMにて調理という大切な作業を聞き取り,今まで事例自身が出来ないと思われていた調理は,難易度と環境を工夫すれば可能であることがわかった.今回の介入により,寡黙であった事例が明るく話をするようになり,ポジティブな語りがあった.事例にとって大切な調理を行い,出来たことや性格についての気づきがアイデンティティを形成する機会となり,満足度に繋がったと考える.