講演情報

[10401-07-04]脳梗塞による重度上肢機能障害に対してロボット療法を含めた複合的なアプローチを実施し,麻痺手を使用した食事動作が獲得できた事例

*木明 寛人1、廣瀬 卓哉1,2、坂上 夏菜1、山岡 洸1、丸山 祥1,3,4 (1. 医療法人社団健育会湘南慶育病院リハビリテーション部、2. 吉備国際大学保健福祉研究所準研究員、3. 東京都立大学大学院人間健康科学研究科、4. 北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科作業療法学専攻)

キーワード:

脳卒中、課題指向型訓練、ロボット

【目的】
本報告の目的は,脳梗塞による重度上肢機能障害を呈した事例に対して,課題指向型訓練(TOT)に加えてロボット療法,Transfer Package(TP)を複合的に実施し,麻痺手を使用した食事動作の獲得に至った経過を報告することである.本報告について事例より書面にて同意を得た.
【事例紹介】
事例は60歳代の男性,左利き,診断名は脳梗塞(左被殻〜放線冠)であり右片麻痺を呈していた.病前は,妻と娘との3人暮らしであり,サラリーマンとして仕事をしていた.発症後第18病日に当院回復期リハビリテーション病棟に転院となった.
【方法】
初期評価(18病日)では,FMA-UE: 8/66(A: 8,B〜D: 0),ARAT: 3/57,MAL: AOU/QOM共に0であった.事例のニーズは,食事の際にお椀を把持できることや,日常生活で麻痺手を補助手として使用することであった.Ⅰ期(19〜32病日): 麻痺手の随意性を引き出すことを目的に,電気刺激を用いた促通反復療法とShapingを中心としたTOTを実施した.Shapingは,お椀を把持するために必要な関節運動の機能改善を促した.Ⅱ期(33〜51病日): TOTの内容を食事獲得に必要な前腕回内外を含む複合運動を中心としたShapingに移行した.自主練習としてロボット療法(ReoGo®-J,MELTz®)を開始した.ReoGo®-Jは,軌道アシストモードから開始した.MELTz®は,前腕の筋電図を測定し,アクティブ指示にて手指の屈曲・伸展を行った.TPでは,まず麻痺手の日常的な使用の定着を促すために,難易度が低い活動での麻痺手の使用を促した.Ⅲ期(52〜76病日): TOTの内容をTask Practice中心に変更した.持ちやすい形状のお椀から開始し難易度調整を図ることで,お椀の把持に必要な関節運動の獲得を促した.自主練習のReoGo®-Jは空間保持の課題,MELTz®はフリーモードにて前腕中間位での物品移送を行った.TPは,おしぼりの開封や非麻痺手の洗体などの応用的な活動での麻痺手の使用を促した.
【結果】
再評価(76病日)では,FMA: 28/66(A: 22,B: 0,C: 6,D: 0),ARAT: 10/57,MAL: AOU/QOM共に0.36となった.MALの改善は緩徐であったが,両手でおしぼりや薬袋の開封,両手での洗顔などの生活場面での使用頻度が向上した.さらに,麻痺手でお碗を把持し,汁物以外の3食を摂取出来るようになった.
【考察】
重度上肢機能障害を呈した事例に対して,TOT及びロボット療法を複合的に実施したことにより,麻痺手の課題特異的な動作の獲得に加えて,量依存的な機能改善を促進出来たものと考える.その結果,上肢機能の改善のみに止まらず,事例のニーズであった麻痺手を使用した食事動作の獲得に貢献したものと考えられた.