講演情報

[5OlXCzC1-02]ポスト震災におけるBlue Hopeの地域的な展開:三陸沿岸における海洋リテラシーの再定義と変革的実践

*大木 優利1、北里 洋2、藤井 豊展3、村田 裕樹4、倉石 恵5、伊藤 浩吉6 (1. 聖路加国際大学 (日本)、2. 東京海洋大学 (日本)、3. 東北大学 (日本)、4. 北里大学 (日本)、5. 株式会社オーシャンアイズ (日本)、6. 理研食品株式会社 (日本))
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キーワード:

海洋リテラシー、変革的主体性、在来生態学的知識、ハビタットマップ、海洋市民権、コミュニティを基盤とした資源管理

【目的】
2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町および女川町の沿岸漁業コミュニティを対象に、漁業者が持つ「地元の海に関する知恵(在来生態学的知識:IEK/LEK)」がいかにして「海洋リテラシー」として機能しているかを明らかにすることを目的とする。 特に、科学者との協働活動を通じて、科学的知見と経験的知見を統合する「知識の協働創出」が、コミュニティの変革的主体性(Transformative Agency)や社会・生態学的レジリエンス(Social-Ecological System: SES)をいかに強化するかを考察する。
【方法】
対象地域: 宮城県南三陸町(ラムサール条約湿地、エコツーリズム推進地)および女川町(商業漁業・加工業拠点、女川原子力発電所立地)。アプローチ: 社会・生態システム(SES)モデルおよび「Toolkit of Resilience in Socio-Ecological Production Landscapes and Seascapes(SEPLS)」指標を用いた質的研究。調査手法:参加型マッピングワークショップ: 科学者と住民の協働によるハビタットマップの作成。若手漁業者との対話: 科学的知見(形式知)と現場の知恵(暗黙知)を統合する対話の観察。おながわ大学の取り組み事例など。
【結果】
知識の再定義: 漁業者の経験則が、単なる伝統ではなく、科学的データと相互補完的な関係にある「海洋リテラシー」の重要な構成要素であることが確認された。(事例:南三陸町における過密養殖の是正)ハビタットマッピングの効用: 生態系の可視化により、食物連鎖や海底地質への理解が深まり、持続可能な資源管理への意欲が向上した。(事例:出島の若手漁師主導による藻場再生の実践)地域特性による差異: 南三陸町ではかねてより「森・里・川・海」の連環を意識した自然資源管理の概念が住民間で広く共有されている一方、女川町では漁業者・加工業者・買い手の強力な社会ネットワークが復興の中核となっている実態が浮き彫りになった。自発的活動の誘発: 震災を機に、過密養殖の是正や、森林管理と海洋保全を結びつける「海の森」づくりなど、既存の慣習を変える「変革的主体性」が若い漁業者を中心に芽生えている。
【考察】
海洋リテラシーの進化: 海洋リテラシーを単なる知識提供(知識欠如モデル)ではなく、市民と科学者の双方向の対話を通じた行動へと昇華させる「Blue Hope」アプローチの重要性。変革的研究(Mode-2 Research or Transformative Research): 研究者は単なる観察者ではなく、地域社会の課題解決を共に行う「変革のエージェント(変革の行為主体)」として位置づけることで、地域の自己決定能力、つまり自主性・自律性・自立性が強化される。レジリエンスの源泉: Kurt Lewin(1947)の変化モデル(unfreeze, change, and re-freeze)を用いて、震災という「解凍」プロセスを経て、伝統的な海の知識と科学の融合が新たな持続可能な社会基盤(再凍結)を形成している。
【結論】震災後の沿岸コミュニティにおける海洋リテラシーの向上は、環境教育の枠を拡張し、海と共生する「海洋市民権(Marine Citizenship)」の確立に寄与している。 地元の人たちにとっての「地先の海」とは日々の営為を通して理解されていくものであり、その経験的知見を科学的に検証・体系化するプロセスは、予測困難な環境変化に対する社会・生態学的レジリエンスを構築する上で不可欠である。これがグローバルな持続可能性の目標(UN Ocean Decade等)をローカルな文脈で実践する「Blue Hope」の具体像である。

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