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[2]イギリスの文化財会計制度における文化財の価値認識と運用実態FRS30(The Financial Reporting Standard 30 Heritage Assets)及び FRS102 を対象として

○山本 真紗子1 (1. 国立大学法人 東京科学大学)
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キーワード:

文化財会計、価値、ナショナル・トラスト、イングリッシュ・ヘリテージ

本稿は、英国における文化財会計制度FRS 30「The Financial Reporting Standard Heritage Assets」およびFRS 102「The Financial Reporting Standard applicable in the UK and Republic of Ireland」が文化財の価値をどう捉え、また文化財保全活動団体にどのように影響を与えたかを明らかにすることを目的とする。FRS 30は、2009年に導入された初の包括的な「文化財資産」基準として、従来財務諸表上で十分に認識されてこなかった歴史的・文化的価値を有する資産を会計の枠組みに組み入れる試みであり、制度的には公共的資産の財務的可視化を推進する重要な転機と位置づけられる。FRS 102は、2015年以降の新たなUK GAAPとして、FRS 30の原則を内包しつつ中小機関への対応や国際的整合性を意識した包括的な基準であり、文化財の会計処理にと実務的指針を与えたものである。本研究では、両基準で文化財の価値がどのように認識されているか、またナショナル・トラストとイングリッシュ・ヘリテージという主要な団体で同基準がどう運用されているかを資料・文献調査を通じて明らかにした。その結果、両基準はいずれも文化財の開示水準を高め、一定の透明性をもたらしたものの、評価手法や制度の運用には課題を残していることが示された。