第46回動物臨床医学会年次大会

第46回動物臨床医学会年次大会に寄せて

学会長 西村 亮平
(東京大学名誉教授)

 

 2023年、IT先進国でICTを活用した学習を進めてきたスウェーデンは、タブレットやパソコンを使った授業から紙の教科書を使った授業に大きく方向転換を行いました。これはスウェーデンの子供たちに「集中力が続かない」「考えが深まらない」「長文の読み書きができない」「読み書き計算の能力が低下している」といった傾向が強くなり、学習到達度調査「PISA」での順位も低下したことを受けてのものでした。もちろんこの低下が紙の教科書を廃止したことによるという単純なものでないことは明白ですが、重要な要因であるとの判断によるものです。人が物事を記憶する際には、その他の様々な刺激(例えば紙をめくる、紙の匂い、視界の中の位置など)伴うことが重要なのでしょう。あの教科書の真ん中あたりの右上に書いてあったなと思いだすことは誰にもある経験だと思います。ハーバード大生の勉強法として有名なBlurting methodは、勉強内容をまず読み込み、覚えていることを全部白紙に書き出し、書き終えたらもう一度ノートや教材に目を通し書き忘れたことを確認し、その情報を別の色のペンを使って同じ紙に書き込むという方法です。この書きこむという行為により、効果的に短期記憶を長期記憶に変換できると言われています。面白いことにノートを取る時に使う色も思っている以上に重要だそうです。

 最近とくにコロナ禍以降はweb上のセミナー等が充実し、学会も一時は対面のものはほとんど姿を消しました。しかし、最近は対面もしくは対面+ネット配信という形に戻りました。Web上の講義だと今一つ覚えていないということが多いのがその理由の一つかもしれません。もちろんweb上の講義、セミナー等のメリットもたくさんあります。要は上手な使い分けが肝心なのでしょう。

 第46回動物臨床医学会は、昨年同様10月にいつもの大阪国際会議場で対面開催されます。 内容も従来の獣医師向けセミナー等に加え、今年度より設立いたしました愛玩動物看護師認定制度のための認定講習の開催をスタートするなど、ご参加の皆様のニーズに合った講演内容を企画いたしました。

 今回はプロシーディングが持ち運びが便利な電子データとなります。書き込みのできるタブレットやPCをお持ちになり、積極的に書き込みを行うことでたくさんの長期記憶を持ち帰られてはいかがでしょうか。秋の大阪で皆様とお会いできることを楽しみにしております。