大会長挨拶
第24回日本遺伝看護学会 学術大会開催にあたって

第24回日本遺伝看護学会学術大会
大会長 村上 好恵
慶應義塾大学看護医療学部成人看護学/
大学院健康マネジメント研究科 教授
このたび、第24回日本遺伝看護学会学術大会の大会長を拝命し、大変光栄に存じますと同時に、その重責に身が引き締まる思いです。
ライフワークとなる家族性腫瘍に出会うきっかけは、1997年、兵庫県立看護大学大学院の院生時代に兵庫医科大学病院外科教授(当時)の宇都宮譲二先生の外来に毎週同席させていただいたことでした。大腸全摘後の日常生活上での困り事について話されている家族性大腸腺腫症の患者さんの様子を初めて拝見し、消化器外科の看護師経験の中でも出会ったことのない疾患であり、大腸を切除するとはどういうことだろう、この疾患は何だろう、術後の生活で他にはどのようなことで困るのだろう、など多々疑問に思ったこと、そして自分の無知さを今でも鮮明に覚えています。また、がんを発症しやすいという情報を知りながらも、その情報を活用せずに若くしてがんで亡くなる方や、本人が発症リスクの高い遺伝子を持っていることを知らずにがんで亡くなる方に出会い、どうにかせねばと心が動いたことを、今もありありと思い出します。
がんに限らず、様々な疾患に関する遺伝子の解明が進み、治療方針が大きく変革する時代に突入しました。看護師は、医師のように手術をしたり薬剤を処方することは行いませんが、新しい医療情報をわかりやすく伝え、共に考えることや、自分の人生を満足のいくように生き抜いてもらうための支援を行うことができます。看護師、保健師、助産師である看護職が、遺伝/ゲノムに関する最新の情報や知識を持つことで、支援の幅は大いにひろがります。
今回のテーマは「遺伝看護の智の展開」としました。「智」は物事を考える能力、「展開」は広くひろげること/物事をくりひろげること/次の段階に進めること、などの意味があります。これまでの学術大会で、多くの遺伝看護の智が蓄積されてきました。そして、第23回大会長の北村千章先生(テーマ「すべてのいのちのために遺伝看護の未来を繋ぐ」)から受け継いだバトンを、皆さまと一緒に次へと展開していきたいと考えました。
今後さらに遺伝子の解明が進んだとしても、お一人おひとりの情報の受けとめ方、その疾患やリスクの可能性との向き合い方、そして情報や治療による身体的・精神的・社会的影響のあらわれ方は、個人で異なります。したがって、医療者は常に丁寧に、真摯にお一人おひとりの困り事に向き合い、そして、未来を考えた上での「今」なすべきことに対して、医療者だけではなく当事者の方々も含めて皆で議論を重ねてまいりたいと思います。
会員の皆さまには、研究や実践の成果をご発表いただき、討論を通して次につながる研鑽の場にしていただきたいと思っております。参加者の皆さまにとって、有意義な2日間になるよう万全の準備を重ねていく所存です。多くの皆さまの御参加を、心よりお待ちしております。