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[R1-01]新鉱物の近年の動向

*宮脇 律郎1 (1. 国立科学博物館)
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新鉱物、新鉱物・命名・分類委員会

国際鉱物学連合の新鉱物・命名・分類委員会(IMA CNMNC)に新鉱物として提出される提案は2018年に168件を記録し、その後、同委員会で審査された提案のみならず、承認され同委員会のNewsletterで公表された新鉱物は年間100件を超えて推移している。一方で、分類命名規約の策定や改定も進み、既知鉱物種の少なからずが再定義や抹消された。現時点で有効な鉱物種の数は6164種に及び、2000年から四半世紀で2000種余りの増加を見せている。鉱物種は化学組成と原子配列により定義されるが、その分析・評価法にも新たな動向が見られる。
 1960年代以前に主力であった湿式分析などのバルク分析は、2000年代には電子線マイクロプローブなどによる局所分析にほぼ代替された。定量分析のほとんどは波長分散型(WDS)電子線マイクロプローブにより成されている。1980年代まで補正計算に汎用されたBence and Albee法は影を潜めZAF法やその改良法が多くを占め、近年ではPAP、φρ(z) アルゴリズムなども使われている。エネルギー分散型(EDS)は、含有成分を特定する定性分析や予備半定量分析に用いられることが多い。検出器と強度測定法の改良に伴い信頼性の高い定量が可能となり、電子ビームによる損傷の激しい試料の分析や、透過型電子顕微鏡(TEM)やX線回折計に検出器を装着した同時分析などに適用されるようになってきている。以前は困難・不可能であった軽元素のうち、フッ素やホウ素は、電子線マイクロプローブによる定量分析が常用されている。リチウムやベリリウムの定量については、二次イオン質量分析(SIMS)に代わりレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)が台頭してきた。年代測定に汎用される同法は、希土類元素の定量分析に使われた例も現れている。水素を直接定量分析する場合はほとんど無く、専ら結晶構造解析やラマンや赤外吸収などの分光分析の結果を基に、水分子、水酸化物イオンなどとして化学量論的に見積もっている。燃焼式のCHN 元素分析装置は、水素の定量や、有機化合物鉱物の炭素、アンモニウム鉱物の窒素の定量に適用した例が見られる。
 鉄やアンチモンなどの価数決定は、時に鉱物種の定義や同定で重要である。試料量が十分であればMössbauer法を鉄に適用できるが、新種の場合は試料量が少なく適用できない場合が多い。近年、X線光電子分光法(XPS)が応用されている事例もある。
 ここ数年、承認された新鉱物のほとんどで結晶構造が解析されている。多くは単結晶X線回折データに基づく解析である。専らCCD、IP、HPC(HyPix)など2次元検出器による回折図形から格子定数と回折強度データを得て、直接法にdual-spaceやintrinsic-phasing、さらにcharge flippingなどの手法が加わって結晶構造が決定されている。精密化はFに代わってF 2の完全マトリックス最小自乗法が常用されている。解析に適した単結晶が得られない場合は、粉末回折データによるリートベルト解析で結晶構造解析の精密化を図っている場合もある。さらに包有物のような極微小試料について、3次元電子線回折(3DED)から結晶構造を決定したり、制限視野電子線回折(SAED)や電子後方散乱回折(EBSD)図形を結晶構造既知の物質と照合しながら結晶構造を特定することも行われている。今後も粉末X線回折データは種(相)同定のデータベースとなるため、その重要性に変わりなく、新種の基本データとして提出は要求され続けると見込まれる。しかし極微量や分離不可能な混在の場合など、適切な粉末回折データが得られない場合も少なくない。このような場合には、2次元検出器に記録された単結晶回折図形から再現(simulate)したり、結晶構造から計算した粉末回折データで代用することが認められるようになってきた。
 断続して改定されてきた命名規約は、鉱物種間の関係性、接頭語・接尾語の用法、歴史的鉱物名の保全などに結着が見られた。一方、鉱物種の階層分類の指針が示された。命名規約と整合した鉱物族、鉱物超族の整理、再編が進みつつある。同時に少なからずの鉱物種が、再定義、改名、抹消されている。抹消された鉱物名は、復活再承認が無ければ、向こう50年間、別種の新種に充てることは認められていない。命名規約の改定、鉱物種の再定義や抹消は、学術の発展のために行われているが、旧来の習慣や常識を覆すこともあり、時に学界に混乱をもたらしていることも事実である。将来の混乱を招かないためにも、承認される新鉱物は、明確に定義され、近い将来に抹消される危うさが無いものでなければならない。これを支える分析・評価法のさらなる発展が期待される。