講演情報
[R1-03]愛知県田口鉱山からの新鉱物、堀石(horiite)について
*浜根 大輔1、永嶌 真理子2、森 祐紀3、大西 政之、石坂 知裕、井上 真治 (1. 東京大学、2. 山口大学、3. 高輝度光科学研究センター)
キーワード:
堀石、吉村石、ヘイトマン石、bafertisite族、seidozerite超族
チタンケイ酸塩ブロックを結晶構造中に有する鉱物群が体系的に整理され、Seidozerite超族が提唱された[1]。この分類体系において、Tiを2 apfu含む鉱物はbafertisite族に属し、命名規約が整備された時点で、吉村石を含めて9種の鉱物が同族に含まれている。吉村石は岩手県野田玉川鉱山で最初に発見され、のちに愛知県田口鉱山からも報告された。後年には、同族に属するヘイトマン石が田口鉱山から産出することが示された。本研究では、それらとは異なる同族の未知の鉱物が田口鉱山から産出することを確認した(図1)。その鉱物は堀石(horiite)と命名され、新鉱物として新鉱物・命名・分類委員会より承認された(IMA no. 2025-029)。堀石の名称は、日本の鉱物学の発展に貢献した堀秀道博士(1934-2019)にちなむものである。
堀石は、粗粒なバラ輝石結晶からなる塊状鉱石中に産出し、特に石英の脈やレンズと関連して形成される。堀石は微細で薄い板状結晶となり、それらが石英中に平行に配列することで、標本の外観はヘイトマン石と酷似する。堀石の標本にはパイロファン石、燐灰石、セルシアン、アルカリ長石、黒雲母なども伴われる。また、堀石はヘイトマン石と層状集合を形成することがある。一方で吉村石と共存する例は限定的であった。
WDS分析による堀石の実験式は(Ba1.98Sr0.01)Σ1.99(Mn1.97Ca0.04)Σ2.01(Mn3.34Fe0.36Mg0.31)Σ4.01(Ti1.98Sn0.03)Σ2.01Si4.00P1.99O24[(OH)1.92F0.08]Σ2であり、理想化学式はBa2Mn2Mn4Ti2(Si2O7)2(PO4)2O2(OH)2と決定された。これは吉村石の理想化学式にある4つのBaの2つをMnに置き換えた表現に相当するが、両者の結晶構造は異なっており、単純な元素置換体の関係ではない。放射光X線による粉末XRDパターンから計算した格子定数は、空間群P-1においてa = 5.3340 (9) Å, b = 13.884 (2) Å, c = 14.270 (3) Å, α = 98.785(15)°, β = 93.836(16)°, γ = 90.029(16)°, V = 1043.7(3) Å3 (Z = 2)であった。
堀石の結晶構造については、単結晶X線回折とTEM観察で検討された。結晶はやや欠陥を含んでいるが、単結晶X線構造解析はR1 = 3.03%で収束し、結晶構造モデルの構築には支障はなかった。結晶構造はチタンケイ酸塩(TS)ブロックと中間(I)ブロックの配置によって特徴付けられ、堀石のTSブロックはMn(O,OH)6八面体シートとTiO6八面体に結合した2つのSiO4四面体からなるシートで構成され、IブロックにはPO4四面体と、BaおよびMnの多面体が含まれている。この結晶構造はしばしば共存するヘイトマン石よりむしろ、あまり共存することのない吉村石とよく似ている。ただし、堀石と吉村石は、TSブロックのTi-O多面体の配位数、IブロックのPO4四面体の位置、およびb軸長に違いが認められる。具体的には、Ti-O多面体は堀石ではTiO6だが、吉村石はTiO5。堀石ではPO4四面体がT-O多面体と頂点共有するが、吉村石では分離している。堀石ではSiO4四面体とTiO6八面体がc軸に沿ってわずかにチルトしていることで、その一周期(b軸長)は、そのようなチルトを持たない吉村石の約2倍に相当する。結果として、堀石の構造はbafertisite族における新しい結晶構造である。なお、吉村石の結晶構造は先行研究[2]によって解かれているが、Mn3サイトの位置がおそらく誤っている。そこで、本研究では吉村石についても自前で解析を行い、比較を行った。
[1] Mineralogical Magazine, 81, 1457 (2016).
[2] Canadian Mineralogist, 38, 649 (2000).
堀石は、粗粒なバラ輝石結晶からなる塊状鉱石中に産出し、特に石英の脈やレンズと関連して形成される。堀石は微細で薄い板状結晶となり、それらが石英中に平行に配列することで、標本の外観はヘイトマン石と酷似する。堀石の標本にはパイロファン石、燐灰石、セルシアン、アルカリ長石、黒雲母なども伴われる。また、堀石はヘイトマン石と層状集合を形成することがある。一方で吉村石と共存する例は限定的であった。
WDS分析による堀石の実験式は(Ba1.98Sr0.01)Σ1.99(Mn1.97Ca0.04)Σ2.01(Mn3.34Fe0.36Mg0.31)Σ4.01(Ti1.98Sn0.03)Σ2.01Si4.00P1.99O24[(OH)1.92F0.08]Σ2であり、理想化学式はBa2Mn2Mn4Ti2(Si2O7)2(PO4)2O2(OH)2と決定された。これは吉村石の理想化学式にある4つのBaの2つをMnに置き換えた表現に相当するが、両者の結晶構造は異なっており、単純な元素置換体の関係ではない。放射光X線による粉末XRDパターンから計算した格子定数は、空間群P-1においてa = 5.3340 (9) Å, b = 13.884 (2) Å, c = 14.270 (3) Å, α = 98.785(15)°, β = 93.836(16)°, γ = 90.029(16)°, V = 1043.7(3) Å3 (Z = 2)であった。
堀石の結晶構造については、単結晶X線回折とTEM観察で検討された。結晶はやや欠陥を含んでいるが、単結晶X線構造解析はR1 = 3.03%で収束し、結晶構造モデルの構築には支障はなかった。結晶構造はチタンケイ酸塩(TS)ブロックと中間(I)ブロックの配置によって特徴付けられ、堀石のTSブロックはMn(O,OH)6八面体シートとTiO6八面体に結合した2つのSiO4四面体からなるシートで構成され、IブロックにはPO4四面体と、BaおよびMnの多面体が含まれている。この結晶構造はしばしば共存するヘイトマン石よりむしろ、あまり共存することのない吉村石とよく似ている。ただし、堀石と吉村石は、TSブロックのTi-O多面体の配位数、IブロックのPO4四面体の位置、およびb軸長に違いが認められる。具体的には、Ti-O多面体は堀石ではTiO6だが、吉村石はTiO5。堀石ではPO4四面体がT-O多面体と頂点共有するが、吉村石では分離している。堀石ではSiO4四面体とTiO6八面体がc軸に沿ってわずかにチルトしていることで、その一周期(b軸長)は、そのようなチルトを持たない吉村石の約2倍に相当する。結果として、堀石の構造はbafertisite族における新しい結晶構造である。なお、吉村石の結晶構造は先行研究[2]によって解かれているが、Mn3サイトの位置がおそらく誤っている。そこで、本研究では吉村石についても自前で解析を行い、比較を行った。
[1] Mineralogical Magazine, 81, 1457 (2016).
[2] Canadian Mineralogist, 38, 649 (2000).
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