講演情報
[R1-04]中宇利石の結晶化学的再検討
*門馬 綱一1、林 秀幸1、宮脇 律郎1、小林 祥一2、岸 成具 (1. 国立科学博物館、2. 岡山理大)
キーワード:
中宇利石、単結晶X線構造解析
はじめに
中宇利石は愛知県新城市中宇利鉱山から発見され、1976年に発表された新鉱物である (Suzuki et al., 1976)。中宇利石は蛇紋岩の裂罅に沿って、微細な針状〜繊維状の淡青色ガラス光沢の結晶集合体として産出する。共生鉱物はクリソタイル、ブロシャン銅鉱、孔雀石、アルチニー石などで、蛇紋岩の内部には輝銅鉱などの初生的な銅鉱物も見られる。原著論文では中宇利石の組成はMn0.019Ni0.231Cu7.770(SO4)3.904CO3(OH)6.232・48.4H2Oと報告されたが、この組成は不純な分離結晶の分析結果から、混入したクリソタイルを不純物成分の全量と仮定して引き算して求めたものである。その後の研究で硫黄は混入物に起因し、マグネシウムは混入したクリソタイルの成分として誤って除外計算された可能性が疑われており、理想組成として(Mg3Cu2+)(OH)6(CO3)·4H2Oが提案されている(Chukanov and Vigasina, 2019)。格子定数も原著論文ではa = 14.585, b = 11.47, c = 16.22の直方晶系とされたが、その後の単結晶X線回折実験ではa = 9.62(l), b = 6.231(6), c = 7.857(8), β = 111.82(7)の単斜晶系と報告されている (Peacor et al., 1982)。反射指数kが奇数次の回折強度が極めて弱いことから、b軸長の半分の周期の部分構造があることも示唆されたが、消滅則の有無は判定できず、構造解析には成功していない。このように化学組成も格子定数も未解明の問題を抱えていることから、単結晶X線回折実験によって、中宇利石の理想組成と結晶構造を再検討した。
試料および実験
試料には、岡山県北房地域の中宇利石を用いた。同産地の中宇利石の組成は、先行研究により(Mg6.19Cu1.77Ni0.02Zn0.01Fe0.01)Σ8.00 (SO4)0.01(CO3)1.00(OH)13.99・13.44H2Oと報告されている(錦郡ら, 2017)。相同定にはガンドルフィーカメラ(カメラ114.6 mm)による粉末X線回折(XRD)測定を行い、線源にはNiフィルターで単色化したCuKα線(30kV, 20mA)を使用した。単結晶X線回折実験は回転対陰極(50kV, 24mA, MoKα)と多層膜X線集光ミラー(VariMax)を備えたRigaku Synergy Customを用いた。初期モデルの導出にはSuperflipを、精密化にはSHELXLを使用し、中性の原子散乱因子を用いた。
結果
XRDの主な回折線[d Å (I/I0)]は,7.28 (100),2.358 (27), 3.642 (22), 2.391 (17) 1.911 (16)であり、中宇利石のデータと一致する。単結晶XRDは、一見、直方晶系のa = 9.5908(9), b = 72.870(6), c = 6.1890(5)で指数付が可能であったが、観測されない反射が不規則に多数並んでおり、双晶が疑われた。そこでさらに検討した結果、a = 7.8614(6), b = 6.1927(3), c = 9.5913(5), β = 111.955(6)の単斜晶系の格子が双晶面{100}で双晶したものと判明した。構造解析の結果、空間群P2/mにてR1 = 6.11%まで精密化することに成功した。結晶構造モデルから導出した理想組成はMg6Cu2+2(OH)14(CO3)·4H2Oである。今後、中宇利鉱山産のタイプ標本についても組成分析とXRD測定を行う予定である。
引用文献
Chukanov, N.V. and Vigasina, M.F. (2019) Some Examples of the Use of IR Spectroscopy in Mineralogical Studies. In Vibrational (Infrared and Raman) Spectra of Minerals and Related Compounds, 1-17.
Peacor, D.R., Simmons, W.B., Essene, E.J., Heinrich, E.W. (1982) Am. Mineral. 67 156–169.
Suzuki, J., Ito, M., Sugiura, T. (1976) J. Japan. Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 71, 183–192.
錦郡雄基, 池内大起, 中野良紀, 小林祥一, 岸 成具 (2017) 日本鉱物科学会2017年年会講演要旨集, R1-P09.
中宇利石は愛知県新城市中宇利鉱山から発見され、1976年に発表された新鉱物である (Suzuki et al., 1976)。中宇利石は蛇紋岩の裂罅に沿って、微細な針状〜繊維状の淡青色ガラス光沢の結晶集合体として産出する。共生鉱物はクリソタイル、ブロシャン銅鉱、孔雀石、アルチニー石などで、蛇紋岩の内部には輝銅鉱などの初生的な銅鉱物も見られる。原著論文では中宇利石の組成はMn0.019Ni0.231Cu7.770(SO4)3.904CO3(OH)6.232・48.4H2Oと報告されたが、この組成は不純な分離結晶の分析結果から、混入したクリソタイルを不純物成分の全量と仮定して引き算して求めたものである。その後の研究で硫黄は混入物に起因し、マグネシウムは混入したクリソタイルの成分として誤って除外計算された可能性が疑われており、理想組成として(Mg3Cu2+)(OH)6(CO3)·4H2Oが提案されている(Chukanov and Vigasina, 2019)。格子定数も原著論文ではa = 14.585, b = 11.47, c = 16.22の直方晶系とされたが、その後の単結晶X線回折実験ではa = 9.62(l), b = 6.231(6), c = 7.857(8), β = 111.82(7)の単斜晶系と報告されている (Peacor et al., 1982)。反射指数kが奇数次の回折強度が極めて弱いことから、b軸長の半分の周期の部分構造があることも示唆されたが、消滅則の有無は判定できず、構造解析には成功していない。このように化学組成も格子定数も未解明の問題を抱えていることから、単結晶X線回折実験によって、中宇利石の理想組成と結晶構造を再検討した。
試料および実験
試料には、岡山県北房地域の中宇利石を用いた。同産地の中宇利石の組成は、先行研究により(Mg6.19Cu1.77Ni0.02Zn0.01Fe0.01)Σ8.00 (SO4)0.01(CO3)1.00(OH)13.99・13.44H2Oと報告されている(錦郡ら, 2017)。相同定にはガンドルフィーカメラ(カメラ114.6 mm)による粉末X線回折(XRD)測定を行い、線源にはNiフィルターで単色化したCuKα線(30kV, 20mA)を使用した。単結晶X線回折実験は回転対陰極(50kV, 24mA, MoKα)と多層膜X線集光ミラー(VariMax)を備えたRigaku Synergy Customを用いた。初期モデルの導出にはSuperflipを、精密化にはSHELXLを使用し、中性の原子散乱因子を用いた。
結果
XRDの主な回折線[d Å (I/I0)]は,7.28 (100),2.358 (27), 3.642 (22), 2.391 (17) 1.911 (16)であり、中宇利石のデータと一致する。単結晶XRDは、一見、直方晶系のa = 9.5908(9), b = 72.870(6), c = 6.1890(5)で指数付が可能であったが、観測されない反射が不規則に多数並んでおり、双晶が疑われた。そこでさらに検討した結果、a = 7.8614(6), b = 6.1927(3), c = 9.5913(5), β = 111.955(6)の単斜晶系の格子が双晶面{100}で双晶したものと判明した。構造解析の結果、空間群P2/mにてR1 = 6.11%まで精密化することに成功した。結晶構造モデルから導出した理想組成はMg6Cu2+2(OH)14(CO3)·4H2Oである。今後、中宇利鉱山産のタイプ標本についても組成分析とXRD測定を行う予定である。
引用文献
Chukanov, N.V. and Vigasina, M.F. (2019) Some Examples of the Use of IR Spectroscopy in Mineralogical Studies. In Vibrational (Infrared and Raman) Spectra of Minerals and Related Compounds, 1-17.
Peacor, D.R., Simmons, W.B., Essene, E.J., Heinrich, E.W. (1982) Am. Mineral. 67 156–169.
Suzuki, J., Ito, M., Sugiura, T. (1976) J. Japan. Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 71, 183–192.
錦郡雄基, 池内大起, 中野良紀, 小林祥一, 岸 成具 (2017) 日本鉱物科学会2017年年会講演要旨集, R1-P09.
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