講演情報

[R1-05]熊本県阿蘇外輪山俵山(護王峠)の“普通角閃石”中のレーナイト(rhönite)

*上原 誠一郎1、井上 晴貴2 (1. 九州大学・博物館、2. エネコム株式会社)
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キーワード:

俵山、護王峠、レーナイト、クラタイト、”普通角閃石”

1. はじめに
レーナイトはサフィリン超族,レーナイト族(Mills et al., 2009)の一種であり,化学式はCa4[Mg8Fe3+2Ti2]O4 [Si6Al6O36](Grew et al., 2008), Ca2(Mg, Fe2+,Fe3+)5TiO2[(Si,Al)6O18](Deer et al. 1997),Ca2(Mg, Fe2+)4TiFe3+[O2|Al3Si3O18](Strunz and Nickel, 2001)とされる.火成岩中の初生鉱物または角閃石の変質生成物として産出し,アエンデ隕石中からもチタンに富むものが報告されている(Deer et al. 1997).また,2013年にドルビニ(D’Orbigny)隕石中からクラタイト(kuratite,Ca4(Fe2+ 10Ti2)O4[Si8Al4O36])がレーナイトの鉄に富む新鉱物として承認されている(Hwang et al., 2016).熊本県阿蘇外輪山の俵山南方の護王峠は角閃石標本の産地として知られる.この角閃石は褐色種で,当時の分類で“普通角閃石”と記載された(松本, 1954).井上・上原(2024)は昨年の年会でこの角閃石について再検討結果を報告した.角閃石はほぼ全体が変化して仮像を呈するものから,1~3割残存するものが認められ,角閃石残晶は赤褐~淡黄茶の強い多色性を示す.角閃石結晶内部に数μmから30μm程度の結晶の集合体が虫食い状に散在していた.この部分では苦土橄欖石(Mg#≈0.95),透輝石,普通輝石,磁苦土鉄鉱,磁鉄鉱,カリ長石,スピネルなどを認めた.これらの鉱物の他に未同定鉱物があり,今回,レーナイトであることが判明したのでその鉱物学的性質を報告する.
2.試料・分析手法
護王峠の安山岩から分離した角閃石を分析対象とした.角閃石結晶の研磨薄片を光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察を行った.X線回折分析にはRigaku RINT RAPID IIを用いた.組織観察,化学分析および面分析には,SEM (JEOL JSM-7001F)を用いた.
3.結果
角閃石中のレーナイトは長さ10-100μmの包有物を含まない自形の短~長柱状,100μm程度の一部結晶面を有し,包有物を多数含む不定形状の粒子として多数存在する(Fig. 1a).比較的大きな粒子の双眼実体顕微鏡観察では赤褐色に見える(Fig. 1b).SEM-EDSにより求めた化学組成はSiO2 24.73, TiO2 3.78, Al2O3 18.65, MgO 15.48, CaO 11.41, Cr2O3 0.06, MnO 0.17, FeO 15.80,Fe2O3 7.59, Na2O 1.60, K2O 0.03, Total 99.30wt%が得られた(5粒子,19分析点の平均値,2価鉄と3価鉄はO=40,陽イオン数28として計算で求めた).fe値100(Fe2++Fe3+)/(Mg+Fe2++Fe3+)=49.2で,報告されているレーナイトの化学組成(Deer et al. 1997)の平均値に近い.実験式はCa2.94Na0.54Mg0.51[Mg4.60Fe2+3.34Fe3+1.61Al1.52Ti0.88]O4[Si7.65Al4.35O36]で,Ca席の一部をMgあるいはFeが置換,また,Mg席の多くをFeが置換,Ti数が理想値の半分以下である特徴がある.X線回折パターンはPDF 01-083-0632 rhöniteの値とほぼ一致する.8強線のd(Å) 値(強度)は2.539(100), 2.681(48), 2.932(38), 2.101(37), 2.992(36), 2.516(25), 2.770(19), 3.118(16)で 得られた格子定数はa=10.39(4), b=10.72(4), c=8.89(3) Å, α=105.92(8), β=95.98(8), γ=124.93(6) °, V(Å3)=737(4)である.
 我が国のレーナイトの記載は非常に少なく,富田(1931,1934)は隠岐道後近石の黒色の緻密な玄武岩質岩脈中のケルスータイトの変質物として生じたレーナイトの産状を光学的に詳細に報告し,紋川ら(2002)は隠岐道後のマントルゼノリス中のケルスータイトの反応縁中に含まれるレーナイトの化学組成を報告した.この組成から計算したfe値は51.2で鉄に富む.複雑な固溶関係の化学組成を持つレーナイト族鉱物であるが,レーナイトとクラタイトを端成分とする系列とみなすと隠岐道後と護王峠の一部はクラタイトになる.しかし,レーナイトの化学組成式がCa4(Mg8Fe3+2Ti2)O4[Si6Al6O36]と表記(Grew et al., 2008)されると記載されている多くのレーナイトのfe値は40から60であり,混乱を生じるので,表記を修正(Mg8→Mg4Fe2+4)すべきである.

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