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[R1-06]滋賀県湖南市石部緑台で産する燐亜鉛銅鉱と露頭での産状について

*西尾 真輝1、下林 典正1 (1. 京都大・院理)
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キーワード:

燐亜鉛銅鉱、二次鉱物、粘土鉱物、スカルン

燐亜鉛銅鉱(Zincolibethenite)はオリーブ銅鉱グループに属し、理想組成がCuZn(PO4)(OH)で表される直方晶系の稀産鉱物である。同グループの燐銅鉱(Libethenite, Cu2(PO4)(OH))とは固溶体をなす。国内では滋賀県湖南市灰山での産出が報告されているのみである(石橋・下林, 2014)。今回灰山が位置するのと同じ石部緑台地域の別地点において、粘土中に燐亜鉛銅鉱を多産する露頭を発見した。
 石部緑台地域はジュラ紀の丹波帯付加コンプレックス中のチャートおよび石灰岩が分布し、灰山の石灰採石場や石部鉱山では小規模なスカルンが露出している。
 石橋・下林(2014)によると灰山産燐亜鉛銅鉱は、従来燐銅鉱とされていた試料の一部を再検討し見出されたもので、青緑色を呈し、ベゼリ石を伴って産する。灰山での燐銅鉱としての記載は高田・松原(1989)によってなされており、燐酸塩鉱物は石灰岩の露頭地表面から10 m以下掘削が進んだところの、スカルン-石灰岩境界部で粘性の強いモンモリロン石を主体とする黒色粘土が充填している中に見出された。黒色粘土はモンモリロン石類の他に多量の異極鉱と少量の石英を含んでおり、燐酸塩鉱物はベゼリ石が最も多く、次いで燐銅鉱、少量ではあるが擬孔雀石が燐銅鉱と共生する形で普通にみられることが報告されている。
 燐亜鉛銅鉱の露頭での産状を含めた報告例は少なく、とくに本件で発表する産地のように他の燐酸塩二次鉱物に乏しくほぼ燐亜鉛銅鉱単相からなる産状は珍しい。そこで本研究では粘土鉱物を含め燐亜鉛銅鉱を主とした露頭での包括的な記載を行った。
 燐亜鉛銅鉱は肉眼的には青緑-黄緑-緑色と色調変化に富む。多くは粘土中に層状あるいはレンズ状に濃集している。その濃集部に角礫状に割れた石英などの母岩がある場合、それらの隙間を覆うように皮膜状から球状結晶集合体、稀に針状結晶放射状集合体や短柱状自形結晶などで晶出している。露頭全体においてほかに確認できた鉱物種は異極鉱、水亜鉛銅鉱、菱亜鉛鉱、ピータース石-(Y)であった。X線粉末回折実験から得られたピークはいずれもICDD PDF 01-084-6079(Broken Hill産)の回折パターンとよく一致した。格子定数は、a=8.276、b=8.302、c=5.871 Å、V=403.380 Å3となり、灰山産のa=8.308、b=8.290、c=5.868 Å、V=404.2 Å3とよく一致する。化学組成はFE-SEM-EDSを用いた定量分析により決定した。10点測定した平均では、CuO 30.72%、ZnO 32.64%、FeO 0.05%、CaO 0.04%、P2O5 27.16%、SiO2 1.47%、Al2O3 0.07%、total 92.28%で、Zn/(Cu+Zn)=0.51となった。Zn/(Cu+Zn)は粒子によって差があり、最大で0.59、最小で0.29の値を示した。この最大値は既知の天然での報告例と比べて最も亜鉛に富む組成である。また原記載(Braithwaite et al., 2005)には見られなかった組成累帯構造(中心から外に向かうにつれてZn/(Cu+Zn)が低下する組成変化)が一部の粒子には見られた。肉眼的な色と化学組成には明瞭な相関は見られなかった。これは肉眼的な色味は結晶のサイズも影響してくるためと考えられる。
 粘土などはいくつかの色に分かれて層をなしており、橙色の細粒鉱物層と、燐亜鉛銅鉱が濃集することがある灰色~茶色粘土層に大別できる。XRD及びFE-SEM-EDSによる分析の結果、橙色細粒鉱物は灰礬柘榴石、ベスブ石といったスカルン鉱物、灰色~茶色粘土はサポナイトと滑石からなる事が判明した。また後者の粘土中に稀に存在する黒色硬質母岩はFE-SEM-EDSでの観察結果、サポナイト、滑石の他に石英とフッ素燐灰石の存在が確認できた。
 一般に滑石は、苦鉄質岩の変質によるものと苦灰石を含む岩石の低温での変質によるものが知られている。今回、スカルン鉱物と隣接して滑石が存在していることから、初生鉱物として苦灰石や菱苦土鉱が存在したが熱水変質作用を受けることで滑石が生成された可能性がある。高田・松原(1989)によると、灰山でのスカルン中の亜鉛、鉛、銅の硫化鉱物は、石灰岩との接触面に近い部分や細脈部の透輝石-灰礬柘榴石-ベスブ石からなる母岩中に局在している。当該地点でも後者の鉱物は確認できたので同様に初生鉱物として黄銅鉱や閃亜鉛鉱が存在していたと考えられる。これら亜鉛・銅に加えて、フッ素燐灰石が分解されて燐酸が供給され、燐亜鉛銅鉱が生じたものと考えられる。