講演情報
[R1-08]普通角閃石単結晶メスバウアースペクトルのピーク分離と強度テンソル
*篠田 圭司1、小林 康浩2 (1. 大公大・院理、2. 京大・複合研)
キーワード:
メスバウアースペクトル、普通角閃石、強度テンソル
はじめに 輝石と角閃石は鉄などの陽イオンが結晶学的に異なる複数のM席を占める多席固溶体である。輝石や角閃石に含まれる鉄イオンの状態(価数やM席占有率)はメスバウアースペクトルから推定することができる。輝石と角閃石の鉄イオンはメスバウアースペクトルにおいてダブレットピークを示す。ダブレットピークは、①アイソマーシフト、②四極子分裂、③ピーク半値幅、④2本のピークの強度比、の4つのパラメーターで特徴づけられる。粉末試料測定の場合は、④ピーク強度比は等しいとしてスペクトル解析できるので、解析には①②③のパラメーターで十分である。しかし単結晶である薄片試料の局所分析の場合、④ピーク強度比は結晶方向に対するガンマ線の入射方向に依存して変化するので一般的には等しくはなく、強度比を計算するためには強度テンソルという物理量が必要となる。輝石や角閃石の単結晶の複数のM席の鉄イオンのダブレットが重なったメスバウアースペクトルを解析するときには、ダブレットピークの強度比を計算するための強度テンソルという物理量が重要となる。輝石の2つのM席を占める鉄イオンの四極子ダブレットの強度テンソルの化学組成依存性は大まかには解明され始めている(Fukuyama et al.(2022), Shinoda et al. (2023), Shinoda and Kobayashi, (2023))。しかし、角閃石の場合は複数のM席を占める鉄イオンの四極子ダブレットの強度テンソルは全く求められていない。本発表では長野県信濃境池袋産普通角閃石の単結晶のメスバウアースペクトルを測定し、強度テンソルも算出を試みたので報告する。実験と結果 バックラウエX線カメラとプリセッションX線カメラを用いて、池袋産普通角閃石のa-, b-, c-軸に垂直な薄片を作成した。これら3枚の薄片を用いて異なる9方向の単結晶メスバウアースペクトルと、同結晶の粉末試料のメスバウアースペクトルを測定した。いずれのスペクトルもピーク半値幅の広いダブレットを示した。このダブレットピークは、数本のダブレットが重なったダブレットピークと判断し、ピーク分離を試みた。ピーク分離にはメスバウアースペクトル解析ソフトウェアMosswinnを用いた。角閃石は広い範囲での固溶体を作り、Ca2+, Na+などのイオン半径の大きい陽イオンはM4席を占め、Fe2+はM1, M2, M3席を占めるので、ピーク分離には3組のダブレットピークを仮定した。粉末試料メスバウアースペクトルを、ピーク強度比を等しいとし、またアイソマーシフトと四極子分裂の初期値を変えてピーク分離を実行したところ、アイソマーシフト、四極子分裂、ピーク半値幅の異なる3種類の最適解が求まった。9つの単結晶メスバウアースペクトルに対しては、粉末試料から求めた3つの最適解それぞれを用いて、アイソマーシフト、四極子分裂、ピーク半値幅を固定し、ピーク強度比を固定せずにピーク分離した。その結果、9つのガンマ線入射方向に対して、3組のピーク強度比を得て、3組のピーク強度比それぞれについて、3つの強度テンソルを得た。普通角閃石は単斜晶系に属するので、対称性から強度テンソルは対称テンソルで、IYZとIXZの2つの成分は0と固定できる。3つの強度テンソルの妥当性を検証するために、IYZとIXZの2つの成分を0と固定せず強度テンソルを求め、IYZとIXZの2つの成分は0と固定したテンソルと比較した。両者の強度テンソルを比較し一致の良いものを最適な強度テンソルと判断した。
コメント
コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン