講演情報
[R2-02]水熱実験による千葉石の合成条件の探索
*古城戸 佑太1、瀬戸 雄介1、谷 篤史2、磯谷 舟佑2 (1. 大阪公立大・院理、2. 神戸大・院理)
キーワード:
千葉石、シリカクラスレート
はじめに
千葉石はSiO2・n(CH4, C2H6, C3H8, C4H10) ;(n= 3/17)の化学式で表されるシリカクラスレートの一種である[1]。シリカクラスレートとは、頂点共有したSiO4四面体がつくるフレームワークの中にカゴ状の空間を有し、カゴ内に炭化水素ガスなどの分子を内包する物質である。シリカクラスレートは、古環境推定の指標として、あるいはエネルギー貯蔵物質として、地球科学的に重要な物質である。
千葉石構造の結晶を合成した例はこれまで数件報告されている[2,3]が、温度や溶液組成といったパラメータの影響は十分に検討されていない。また、炭化水素分子を内包する千葉石の合成に成功した例もない。そこで本研究では様々なパラメータ下で千葉石の合成を行い、高収率で良質な単結晶を得る条件の探索を試みた。
実験
本実験では、OSDA (有機構造規定剤, カゴの中に導入する分子)として①イソプロピルアミンと②プロパン・ノルマルブタンの混合液(LPG)を用いた。①については、Tamai et al. (2024) [3]を参考に、TEOS・純水・イソプロピルアミンを混合し、加水分解させたオルトケイ酸溶液を出発溶液とした。②については、まずNaOH水溶液にTEOSを混合し加水分解させた溶液を作成し、その後LPGを混合して出発溶液とした。
様々な組成 (TEOS:OSDA:H2Oの比率)の出発溶液に対して、オートクレーブを用いた水熱合成実験を行った。実験温度は100~220℃、加熱期間は1~6週間の範囲である。
回収試料の結晶相は粉末X線回折で評価した。光学顕微鏡観察、偏光顕微鏡観察、SEM観察によって、結晶組織や結晶外形を評価した。
結果
①について、ほとんどの条件で無色透明で八面体形状の結晶が合成された。結晶のサイズは5.0 μm~2.5 mm程度であった。粉末X線回折の結果、千葉石と同様の結晶構造を持つことを確認した。合成結晶の収率(出発溶液質量に対する生成結晶質量の比率)は、実験温度、加熱期間、溶液組成が大きく影響していた。試行した100~220℃の温度範囲では180℃で収率が最大となり、2~6週間の実験期間範囲では6週間で収率最大となった。溶液の組成はおよそTEOS:OSDA:H2O = 0.5:2.2:97.3 (モル比)で収率が最大となった。
②について、無色透明の八面体や六角柱形状の結晶が合成された(図1)。結晶のサイズは20~90 μm程度であった。生成量が少ないため、粉末X線回折での結晶相評価は行っていない。試行した140~160℃の温度範囲と1~2週間の実験期間範囲では140℃・1週間でのみ結晶が合成された。溶液組成はおよそTEOS:OSDA:H2O = 0.5:2.2:97.3 (モル比)である。
以上の結果から、高収率で良質な千葉石単結晶を得るためには、実験温度、加熱期間、溶液組成の条件が重要であると分かった。今後OSDA種ごとの性質や溶液蒸発量による効果を検証することで、より高収率な条件を明らかにすることが期待される。
参考文献
[1] K. Momma et al. (2011) Nature Comm., 2, 196
[2] Gies, H., Marler, B. (1992) Zeolites, 12(1), pp. 42–49
[3] N. Tamai et al. (2024) Rad Phys Chem., 218, 111606
千葉石はSiO2・n(CH4, C2H6, C3H8, C4H10) ;(n= 3/17)の化学式で表されるシリカクラスレートの一種である[1]。シリカクラスレートとは、頂点共有したSiO4四面体がつくるフレームワークの中にカゴ状の空間を有し、カゴ内に炭化水素ガスなどの分子を内包する物質である。シリカクラスレートは、古環境推定の指標として、あるいはエネルギー貯蔵物質として、地球科学的に重要な物質である。
千葉石構造の結晶を合成した例はこれまで数件報告されている[2,3]が、温度や溶液組成といったパラメータの影響は十分に検討されていない。また、炭化水素分子を内包する千葉石の合成に成功した例もない。そこで本研究では様々なパラメータ下で千葉石の合成を行い、高収率で良質な単結晶を得る条件の探索を試みた。
実験
本実験では、OSDA (有機構造規定剤, カゴの中に導入する分子)として①イソプロピルアミンと②プロパン・ノルマルブタンの混合液(LPG)を用いた。①については、Tamai et al. (2024) [3]を参考に、TEOS・純水・イソプロピルアミンを混合し、加水分解させたオルトケイ酸溶液を出発溶液とした。②については、まずNaOH水溶液にTEOSを混合し加水分解させた溶液を作成し、その後LPGを混合して出発溶液とした。
様々な組成 (TEOS:OSDA:H2Oの比率)の出発溶液に対して、オートクレーブを用いた水熱合成実験を行った。実験温度は100~220℃、加熱期間は1~6週間の範囲である。
回収試料の結晶相は粉末X線回折で評価した。光学顕微鏡観察、偏光顕微鏡観察、SEM観察によって、結晶組織や結晶外形を評価した。
結果
①について、ほとんどの条件で無色透明で八面体形状の結晶が合成された。結晶のサイズは5.0 μm~2.5 mm程度であった。粉末X線回折の結果、千葉石と同様の結晶構造を持つことを確認した。合成結晶の収率(出発溶液質量に対する生成結晶質量の比率)は、実験温度、加熱期間、溶液組成が大きく影響していた。試行した100~220℃の温度範囲では180℃で収率が最大となり、2~6週間の実験期間範囲では6週間で収率最大となった。溶液の組成はおよそTEOS:OSDA:H2O = 0.5:2.2:97.3 (モル比)で収率が最大となった。
②について、無色透明の八面体や六角柱形状の結晶が合成された(図1)。結晶のサイズは20~90 μm程度であった。生成量が少ないため、粉末X線回折での結晶相評価は行っていない。試行した140~160℃の温度範囲と1~2週間の実験期間範囲では140℃・1週間でのみ結晶が合成された。溶液組成はおよそTEOS:OSDA:H2O = 0.5:2.2:97.3 (モル比)である。
以上の結果から、高収率で良質な千葉石単結晶を得るためには、実験温度、加熱期間、溶液組成の条件が重要であると分かった。今後OSDA種ごとの性質や溶液蒸発量による効果を検証することで、より高収率な条件を明らかにすることが期待される。
参考文献
[1] K. Momma et al. (2011) Nature Comm., 2, 196
[2] Gies, H., Marler, B. (1992) Zeolites, 12(1), pp. 42–49
[3] N. Tamai et al. (2024) Rad Phys Chem., 218, 111606
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