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[R2-06]Kurnakovite MgB3O3(OH)5·5H2Oの放射光高温その場単結晶X線回折法による脱水メカニズムの検討

*山口 航佑1、興野 純2、Maity Sumit3、佐々木 俊之3、一柳 光平3、中村 唯我3 (1. 筑波大・院生命地球科学、2. 筑波大・生命環境、3. JASRI)
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キーワード:

Kurnakovite、脱水ホウ酸塩鉱物、放射光単結晶XRD、結晶水、熱膨張

天然に産出するホウ酸塩鉱物は,ホウ素の主要な供給源であり,ガラス,セラミックス,半導体,研磨剤,断熱材,洗剤,殺虫剤など,多様な産業分野で広く利用されている.これらのホウ酸塩鉱物の多くは比較的低温で脱水し,準安定な脱水相が出現することが知られている.例えば,ナトリウムホウ酸塩であるborax, Na2B4O5(OH)4·8H2Oは室温付近で脱水し,tincalconite, Na2B4O5(OH)4·3H2Oへ相転移する.また,近年,我々はカルシウムホウ酸塩であるpriceite, Ca2B5O7(OH)5·H2Oにおいて,約300℃に脱水相の存在を確認した.さらに,ナトリウムカルシウムホウ酸塩鉱物であるulexite, NaCaB5O6(OH)6·5H2Oにおいても,約100℃に脱水相NaCaB5O6(OH)6·3H2Oの存在を発見し,その結晶構造解析に成功した(Yamaguchi et al. 2025 AM in press).
 本研究では,マグネシウムホウ酸塩であるkurnakovite, MgB3O3(OH)5·5H2Oに着目し,その詳細な熱分解過程および脱水メカニズムを解明することを目的として,熱重量分析,高温ex-situ放射光粉末X線回折(XRD),さらに高温in-situ放射光単結晶XRDを実施した.放射光粉末XRD測定およびは高温in-situ放射光単結晶XRD測定は,KEK-PF BL8Bビームライン,およびSPring-8 BL02B1ビームラインでそれぞれ行った.
 高温ex-situ放射光粉末XRDの結果からは,kurnakoviteの脱水相の出現は確認できず,140℃で非晶質相に,700℃でMg2B2O5と未同定相に変化した.高温in-situ放射光単結晶XRDの結果は,kurnakoviteは120℃まで単位格子の連続的な膨張を示し,120℃を超えると非晶質相に変化した.単位格子の熱膨張率はacb軸の順に大きく,特にa軸方向への水素結合長の顕著な増加が確認された.Boraxにおいても温度上昇と共にb軸方向への水素結合長の増加による単位格子の膨張が観察されていることから(Nishiyasu and Kyono, 2024), kurnakoviteの単位格子の膨張も,水素結合長の増加に起因すると考えられる.また,kurnakoviteの単位格子内には5種類の結晶水が存在するが,そのうちMg原子に配位している4種類の結晶水は,結合原子価の調整に寄与する transformer H2O (Schindler and Hawthorne, 2001) であり,残り1種類の結晶水は水素結合のみに結合しMg原子に配位していないnon-transformer H2O (Schindler and Hawthorne, 2001)である.非晶質化する直前の120℃における各原子の異方性温度因子の解析の結果,non-transformer H2Oが単位格子中で最も熱振動している水分子であった.すなわち,激しく熱振動するnon-transformer H2Oの水素原子が,近接するホウ酸の基本構造単位のOH基と接近し水素原子間の距離が短くなることにより,120℃を超える高温では,水素原子間の距離が更に縮まり,斥力による反発によって結晶水が脱水することが示唆される.したがって,kurnakoviteはnon-transformer H2Oの脱水によって脱水相MgB3O3(OH)5·4H2Oを生成する可能性が高いが,その安定領域は非常に狭いため,高温ex-situ放射光粉末XRDでは観察することができなかったと考えられる.
 今後は,マグネシウムホウ酸塩鉱物の脱水相の存在を解明するとともに,他のホウ酸塩鉱物においても脱水相の探索を進め,ホウ酸塩鉱物と脱水相の構造的関係性を明らかにしていく.

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