講演情報
[R2-07]ネスケホナイトの脱水による構造・密度変化
*山根 崚1、佐久間 博1、田村 堅志1 (1. 物質・材料研究機構)
キーワード:
ネスケホナイト、脱水、フィラー、針状、セメント
ネスケホナイトは地球表層で生成する含水の炭酸マグネシウムである(化学式:MgCO3・3H2O)。天然のネスケホナイトは、超苦鉄質岩や蛇紋岩などの岩石からMgイオンが溶出し、炭酸化することで生成すると考えられている[1]。ブルーサイト(Mg(OH)2)と二酸化炭素を反応させることでも生成し[2]、Mg(OH)2の炭酸化反応は、大気中の二酸化炭素の固定化に利用が検討されている[3]。そのため、この炭酸化反応の生成物の一つであるネスケホナイトの活用法の検討は、CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)技術の開発という意味で重要である。この活用法の一つとして、ネスケホナイトの針状形状に着目した複合材料のフィラーとしての利用がある。ネスケホナイトの針状という結晶形状は、一般的に、フィラーとして複合材料の機械的強度を増加させることが知られている[4]。そのため、ネスケホナイトはフィラーとして有望であり、先行研究[2]は、MgOベースのセメントにフィラーとしてネスケホナイトを混合して、モルタルの強度を上げることに成功している。その他にもポリマーとの複合材料のフィラーとしての利用も検討されている。ネスケホナイトのフィラーとしての利用を考えるうえで、脱水(復水)反応は重大な化学反応である。なぜならば、この反応は一般的に大きな体積収縮(膨張)を伴うから、複合材料に亀裂などのダメージを与えうる[5]。一方で、複合材料に耐火性を与えるという利点も存在する[6]。本研究は、ネスケホナイトの脱水中での、体積や密度変化に着目した。ネスケホナイトの構造中では、MgCO3のロッドモジュールがMgの配位水同士の水素結合で結ばれ二次元的に配列している(図1)。このような一ないし二次元のモジュール構造に配位した水分子の脱水は、しばしば結晶構造にランダムネスを与える(例えば[7])。ネスケホナイトも同様に、脱水によってブロードなブラッグピークを示すphase X(部分脱水相)→ブラッグピークを示さない脱水相→脱炭酸による分解生成物のような構造変化を起こす。構造中に誘起されるランダムネスが、ネスケホナイトの体積や密度変化などの基礎物性の理解を阻んでいるが、本研究は単結晶X線回折と密度測定を行うことで、それらの基礎物性を推定できることを見つけた。単結晶X線回折測定では、部分脱水相のphase Xにおいて異方的なブロードニングが発生していること、密度測定では脱水の度合いに伴い、単調でない密度変化が起きることが判明した。発表当日は、詳細なSEMによる脱水の結晶観察結果も交えながら、ネスケホナイトの脱水について議論したい。
[1] Ugapeva et al., Minerals 1363 (2023).
[2] Montserrat-Torres. et al., Cement and Concrete Research 189 (2025).
[3] Sodiq et al., Environmental Technology & Innovation 29 (2023).
[4] Sakuma et al, JMPS 120 (2025).
[5] Taylor et al., Cement and Concrete Research 31 (2001).
[6] Liang et al., Polym. Int. 59 (2010).
[7] Yamane et al., PCCP 25 (2023)
[1] Ugapeva et al., Minerals 1363 (2023).
[2] Montserrat-Torres. et al., Cement and Concrete Research 189 (2025).
[3] Sodiq et al., Environmental Technology & Innovation 29 (2023).
[4] Sakuma et al, JMPS 120 (2025).
[5] Taylor et al., Cement and Concrete Research 31 (2001).
[6] Liang et al., Polym. Int. 59 (2010).
[7] Yamane et al., PCCP 25 (2023)
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