講演情報
[R3-02]炭酸カルシウムは高温高圧下で非晶質化するか?
*鍵 裕之1、高野 将大1、森 悠一郞1、小林 大輝1、Litasov Konstantin2、北川 朋玖3、辻野 典秀4、柿澤 翔4、肥後 祐司4 (1. 東京大学、2. ロシア科学アカデミー ヴェレシュチャギン高圧物理研究所、3. 早稲田大学、4. 高輝度光科学研究センター)
キーワード:
炭酸カルシウム、非晶質、高温高圧
地球表層から深部に至る炭素循環を議論する上で、海洋地殻の沈み込みにともない深部マントルへ炭素を運搬する炭酸カルシウムは重要な役割をもつ。炭酸カルシウムには、カルサイト、アラゴナイトといった結晶多形に加え、非晶質炭酸カルシウム(ACC: amorphous calcium carbonate)も存在し、バイオミネラルの前駆体などとして注目を集めている。ACCは化学式CaCO3 nH2O (n<1.5)で表され、構造中に水を含む点が特徴である。常圧下では約400℃で、室温下では1 GPa以下で結晶化することが知られている(Koga et al., 1998; Xu et al., 2006; Yoshino et al., 2012など)。Hou et al.(2019)は、炭酸カルシウム(アラゴナイト)が4-6 GPa、1000-1700 Kで非晶質化することを示し、ACCが沈み込み帯に存在しうること、ならびに炭素循環において重要な役割を果たしうる可能性を指摘した。さらに、Hou et al.(2024)は、高温高圧下で弾性波速度を測定し、ACCによる地震学的な速度異常の可能性を報告した。一方、Litasov et al.(2017)は、3-5 GPa、1100 K以上の条件では非晶質化は観察されず、高温領域において無秩序相あるいは新たな結晶相が確認されたと報告している。Duzhbin et al. (2022)も類似の圧力領域で新たな結晶多形の存在を示唆し、非晶質化は認められなかった。このように地球内部の高温高圧条件でACCが安定に存在できるかは議論が分かれている 。
本研究では、古屋敷産天然アラゴナイトを出発試料として、高温高圧下X線回折実験を大型放射光施設SPring-8 BL04B1において行った。圧力発生にはSPEED-Mk.IIにDIA型ガイドブロックシステムを組み込んだ川井型マルチアンビル装置を用いた。X線回折は2θ=6°でのエネルギー分散法、そして60 keVの単色X線を用いた角度分散法で測定した。いずれも炭化タングステン製TEL12 mmあるいは 5 mmアンビル(26 mm角)を用い、約3 GPaから6 GPa まで加圧後、温度を室温から1400 -1500 Kまで上げながらX線回折パターンを取得した。
実験の結果、Hou et al.(2019)が提唱したアラゴナイト-ACCの境界温度を超えても、アラゴナイトの回折パターンに大きな変化は見られなかった。Litasov et al. (2017)が提唱した、より高温側に位置するアラゴナイト-無秩序相境界を超える温度では、回折強度の低下は見られたものの、Hou et al. (2019) で報告されたような非晶質化にともなうhaloピークは観察されなかった。なお、Hou et al.(2019)の実験はParis-Edinburgh型プレスを用いており、本研究に用いたマルチアンビル高圧発生装置との加圧方式の違いが、異なる結果をもたらした要因である可能性がある。
本研究では、古屋敷産天然アラゴナイトを出発試料として、高温高圧下X線回折実験を大型放射光施設SPring-8 BL04B1において行った。圧力発生にはSPEED-Mk.IIにDIA型ガイドブロックシステムを組み込んだ川井型マルチアンビル装置を用いた。X線回折は2θ=6°でのエネルギー分散法、そして60 keVの単色X線を用いた角度分散法で測定した。いずれも炭化タングステン製TEL12 mmあるいは 5 mmアンビル(26 mm角)を用い、約3 GPaから6 GPa まで加圧後、温度を室温から1400 -1500 Kまで上げながらX線回折パターンを取得した。
実験の結果、Hou et al.(2019)が提唱したアラゴナイト-ACCの境界温度を超えても、アラゴナイトの回折パターンに大きな変化は見られなかった。Litasov et al. (2017)が提唱した、より高温側に位置するアラゴナイト-無秩序相境界を超える温度では、回折強度の低下は見られたものの、Hou et al. (2019) で報告されたような非晶質化にともなうhaloピークは観察されなかった。なお、Hou et al.(2019)の実験はParis-Edinburgh型プレスを用いており、本研究に用いたマルチアンビル高圧発生装置との加圧方式の違いが、異なる結果をもたらした要因である可能性がある。