講演情報
[R3-03]SIMSと中性子構造解析の組合せによる深部マントル含水鉱物の水素濃度の再評価
*奥地 拓生1、清水 健二2、富岡 尚敬2、Purevjav Narangoo3、伊藤 正一4、牛久保 孝行2、鈴村 明政5 (1. 京都大・複合研、2. 海洋研究開発機構・高知コア研、3. ソウル国立大、4. 京都大・院理、5. 京都大・院人間環境)
キーワード:
深部マントル含水鉱物、中性子回折、二次イオン質量分析
深部マントルに存在する高密度の含水鉱物は、地球の進化において重要な役割を果たしてきた。これらの含水鉱物に含まれる水素の総量は海水の質量を超えると考えられる。そのために複数の温度圧力条件で合成された含水鉱物の水素濃度を系統的に解析することは、内部での水素の貯蔵と循環を経た地球の物理的、化学的、生物学的進化を理解する上で基本的な課題である。我々がこれまでに行ってきた中性子構造解析の研究により、1 wt.% 程度以上の比較的水素濃度の多い含水鉱物種については、水素のサイトの位置と占有率(濃度に対応)を高い確度で明らかにすることができた[1-4]。一方で二次イオン質量分析法(SIMS)は、多様な鉱物種中の水素の濃度を測定するために幅広く使われてきた方法であり、その応用によって中性子による解析の下限よりもさらに少量の濃度の水素を分析することも可能である。最近、我々はSIMSと中性子構造解析を組み合わせることで、下部マントルの典型的な組成のブリッジマナイト (Mg0.88Fe0.10Al0.03)(Si0.88Al0.11H0.01)O3 が含む、上記よりも一桁少量の水素の位置と濃度の定量的な解析に成功した[5]。この結果に倣い、異なる温度圧力条件で合成された多様な鉱物種と化学組成の深部マントル含水鉱物種を、SIMSと中性子構造解析を組み合わせて分析することで、地球内部の水素の収支をより正確に制約できると考えられる。そこで我々は、これまでに中性子構造解析を行った比較的水素濃度の多い含水鉱物種に対し、さらにSIMSを使った水素濃度の分析を行った。得られた結果の代表例として、含水ワズレアイトと含水リングウッダイトの水素濃度の比較の図を示す。横軸のSIMS分析(イオン強度比。定数係数により濃度に換算される)と縦軸の中性子構造解析による二つの濃度は、ほぼ同じ化学組成で水素濃度のみ異なる鉱物種では全体が一本の線上に乗ることが予想されるが、得られた結果はこの予想とは異なっていた。ワズレアイトの結果はそれだけで独立した直線を形成し、ほぼ同じ組成のリングウッダイトの結果とは直線の傾きが明らかに異なっていた。また、従来の分析の際に標準的に使われてきた検量線の傾きは後者の傾向に沿うものであった。以上の結果から、これまでのSIMS分析によるワズレアイト中の水素濃度は最大で約30%程度も過大に評価されている可能性がある。この結果を踏まえた上で、深部マントルの含水鉱物の水素濃度をさらに正確に分析するために、試料鉱物種の化学組成に加えて結晶構造も考慮する形での検量線システムの構築を現在進めている。
引用文献 [1] N. Purevjav, T. Okuchi et al., IUCrJ 7 (2020) 370. [2] N. Purevjav, T. Okuchi et al., Acta Cryst. 74 (2018) B115. [3] N. Purevjav, T. Okuchi et al., Sci. Rep. 6 (2016) 34988. [4] N. Purevjav, T. Okuchi et al., Geophys. Res. Lett. 41 (2014) 6718. [5] N. Purevjav, N. Tomioka et al., Am. Mineral. 109 (2024) 1036.
引用文献 [1] N. Purevjav, T. Okuchi et al., IUCrJ 7 (2020) 370. [2] N. Purevjav, T. Okuchi et al., Acta Cryst. 74 (2018) B115. [3] N. Purevjav, T. Okuchi et al., Sci. Rep. 6 (2016) 34988. [4] N. Purevjav, T. Okuchi et al., Geophys. Res. Lett. 41 (2014) 6718. [5] N. Purevjav, N. Tomioka et al., Am. Mineral. 109 (2024) 1036.