講演情報

[R3-10]Pyrolite組成を持つ下部マントル諸鉱物の窒素溶解度の決定と窒素貯蔵庫形成過程への考察

*福山 鴻1、鍵 裕之2、入舩 徹男3、新名 亨3、高畑 直人4、井上 裕貴5、山本 順司1、Villeneuve Johan 6、Füri Evelyn6 (1. 九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門、2. 東京大学 大学院理学系研究科 地殻化学実験施設、3. 愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター、4. 東京大学 大気海洋研究所、5. 九州大学 大学院理学府 地球惑星科学専攻、6. CNRS, CRPG, Université de Lorraine)
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キーワード:

窒素、下部マントル、ブリッジマナイト、フェロペリクレース、酸化還元状態

窒素は地球大気の78 vol%を占め、生命の必須元素であるが、依然として地球内部における振る舞いについては未解明な部分が多い。特に、コンドライト組成で規格化された地球の窒素存在量は、炭素や水と比較して1桁以上枯渇していることが知られている (Marty, 2012)。これは “missing” nitrogenと呼ばれる地球化学の未解決重要課題となっている。この窒素の枯渇の原因の一つとして下部マントルに窒素の貯蔵庫があると考えられ、Ca-perovskite, bridgmanite, magnesiowüstiteといった下部マントル鉱物の窒素溶解度が実験から決定されてきた (Yoshioka et al., 2018; Fukuyama et al. 2023; Rustioni et al., 2024) 。しかし、下部マントルの化学組成を代表するpyrolite (Fe/(Mg+Fe) = 0.1~0.3) 的な鉱物の窒素溶解度は未報告であり、実際の下部マントルの窒素貯蔵能力を議論することができない状態にある。
 本研究は、下部マントルで1番目と2番目に多く存在するbridgmanite及びferropericlaseにおける窒素溶解度と鉄固溶量の関係を決定することを目的とし、超高圧高温実験と二次イオン質量分析を行った。超高圧高温実験には愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター設置のマルチアンビル高圧発生装置を使用し、28 GPa、1400 °C–1600 °Cの条件で合成実験を行った。試料の周りにFe-FeO bufferを配置することによって、実験中は下部マントル相当の酸化還元状態に制御した。急冷回収試料の窒素定量分析をするにあたり、bridgmaniteにはCRPGの高分解能SIMSを、ferropericlaseには大気海洋研究所のNanoSIMSをそれぞれ使用した。急冷回収試料の相同定には九州大学のラマン分光装置を使用した。
 その結果、bridgmaniteの窒素溶解度は鉄の固溶量に応じて一次関数的に増加することが分かった。しかし、pyrolite的なbridgmaniteの窒素溶解度は約10 ppmほどであり、“missing” nitrogenを解決できるだけの窒素を下部マントルに貯蔵できないことが分かった。
 一方、ferropericlaseの窒素溶解度は鉄の固溶量に応じて指数関数的に上昇することが分かった。先行研究ではferropericlase (Fe# ≈ 0.3)の窒素溶解度は最大で17 ppmであったが (Rustioni et al., 2024)、本研究では、ferropericlase (Fe# = 0.28)の窒素溶解度が1.0 × 104 ppmに及んだ。このようなbridgmaniteよりもferropericlaseがはるかに大きい窒素溶解度を誇る要因として、pyroliteモデルにおいてbridgmaniteよりもferropericlaseに多く鉄が分配されることが考えられる (e.g., Irifune et al., 2010)。以上の結果から、ULVZといった下部マントルのFeOをはじめとした鉄に富んだ局所的な領域 (e.g., Tanaka et al., 2020)だけでなく、下部マントル全体が最有力の窒素の貯蔵庫になることが強く提案された。さらに、“missing” nitrogenを解決するために十分な窒素量を下部マントルに貯蔵できることが分かった。