講演情報

[R5-01]棒状カンラン石コンドリュールの凝固組織形成過程の数値計算

*三浦 均1、森田 朋代2、中村 智樹2、渡邉 華奈2、土`山 明3,4、木村 勇気5、小山 千尋6 (1. 名市大・理、2. 東北大・理、3. 中国科学院、4. 立命館大学、5. 北大・低温研、6. 宇宙航空研究開発機構)
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キーワード:

コンドリュール、棒状カンラン石、結晶成長、数値計算

コンドリュール内部の凝固組織は,それが経験した熱史を反映するとされ,形成条件を明らかにするために多くの再現実験が行われてきた。再現実験の結果は「観測的制約条件」として整理され,これを満たす形成プロセスを見出すことがコンドリュール研究の理論的目標であった。しかし,観測的制約条件のすべてを満足する形成プロセスは提案されておらず,コンドリュールの成因は現在も未解明である。その原因のひとつとして,溶融コンドリュールの凝固過程が理論的に十分に理解されていないことが挙げられる。例えば,棒状カンラン石(barred olivine,以下BO)コンドリュールは,平行に並んだ多数の棒状パターン(バー)と,それらを取り囲む球殻状パターン(リム)が,結晶学的方位を揃えて接続しているという特徴的な形状のカンラン石単結晶を含む。このようなリムとバーからなるカンラン石単結晶が,急冷する溶融コンドリュール内部でどのように成長するのかは明らかになっていない。再現実験の結果を土台としてコンドリュール形成プロセスを議論するには,凝固過程自体の理論的理解が不可欠である。

我々は,多成分ケイ酸塩液滴内におけるカンラン石の結晶成長過程を数値計算により解析した。数値計算モデルは,定比組成化合物を扱うことが可能なMgO–FeO–SiO2三成分系定量的フェーズフィールドモデル[1,2]に基づく。全溶融したコンドリュール(メルト)を二次元円で表現し(三次元球にしなかったのは計算コストの問題である),その表面の一ヶ所にカンラン石の種結晶を配置したのち,メルト全体の温度を一定の冷却速度で低下させ,種結晶がどのように成長するかを計算した。また,メルト表面からのFeOやSiO2成分の選択的蒸発による組成分布変化も考慮した。その結果,リムの形成にはこれらの成分の選択的蒸発が重要である可能性が示唆された。蒸発に伴う組成変化によってリキダス温度が上昇し,メルト表面付近の実効的な過冷却度が増加する。さらに,SiO2成分が蒸発することでメルト表面の組成がカンラン石の組成に近づき,結晶成長の抑制が軽減される。これらの効果により,種結晶はメルト表面に沿って急速に成長し,リムが形成される。また,リムの成長と同時に,リム側面に多数の枝が発生し,メルト内部にほぼ平行に伸長してバーが形成される。枝の発生は界面不安定と呼ばれる物理機構に起因しており,成長する結晶とメルトとの間の元素分配の結果として生じたものである。こうしたリムとバーの形成過程は,両者の結晶学的方位が一致しているという特徴を自然に説明できる。

BOコンドリュール内のカンラン石単結晶がこのようなメカニズムで形成したとすると,メルト表面に生じた蒸発層が残るうちにリムとバーが形成する必要がある。必要な冷却速度を理論的に見積もったところ,1秒あたり1℃以上の速さで冷却する必要があることが判明した。この冷却速度は,従来の再現実験が示していた値(1秒あたり1℃以下)よりも大きく,このことはBOコンドリュールが従来考えられていた条件とはまったく異なる条件で形成された可能性を示唆している。これまでの標準的なコンドリュール形成シナリオは従来の再現実験の結果に基づいて検討されていたが,本研究成果はその見直しの必要性を示している。

講演では,Science Advancesに発表した論文[3]に基づき,上記の成果について報告する。

参考文献:[1] Miura, H., 2023, Materialia 31, 101860. [2] Miura, H., 2024, Icarus 425, 116317. [3] Miura, H. et al., 2025, Sci. Adv. 11, eadw1187.

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