講演情報
[R5-02]イトカワの粒子に記録された過去数万年までの太陽活動の記録
*野口 高明1、岡崎 隆司2、松本 徹3,1、土山 明4,5、日高 洋6、木村 眞7、松本 理佳子2、三宅 裕二2、飛松 優2、中田 智絵2、原田 萌香2、平山 有紀子2,8、与賀田 香澄2,9 (1. 京都大学・院理、2. 九州大学・院理、3. 京都大学・白眉センター、4. 立命館大・総合科学、5. 中国科学院・広州地球化学研、6. 名古屋大学・院理、7. 国立極地研、8. 産総研、9. 宇宙航空研究開発機構・宇宙研)
キーワード:
イトカワ、宇宙風化、太陽フレアトラック、貴ガス
はじめに
大気の無い天体表面は,太陽風,太陽宇宙線,銀河宇宙線,メテオロイド高速衝突に曝され徐々に変化(宇宙風化)する.月レゴリス試料の研究から,マイクロメテオロイド高速衝突により蒸発した物質が凝縮した際にnmサイズの金属鉄(npFe0)が形成されるとされ,宇宙風化の主要因はマイクロメテオロイド高速衝突とされた[1].他方,小惑星イトカワ試料の研究から,小惑星での宇宙風化の主要因は太陽風照射損傷とされた[2]−[4].その後,月でも太陽風照射損傷も重要なことが示された[5], [6].
太陽風照射損傷層(SW rim)はレゴリス粒子が天体表面に存在する時に形成され,太陽宇宙線が鉱物中に形成する太陽フレアトラック(SFT)は深さ約1 cmに粒子が存在しても蓄積され得る.曝露年代が既知の月岩石を使い,SFT数密度と太陽曝露期間の関係が研究された [7].また,イトカワ粒子の貴ガス段階加熱放出パターンから,レゴリス層内での運動や粒子の摩耗という個々粒子の履歴が解明された[8].本研究では12個のイトカワ粒子について透過電子顕微鏡(TEM)によるSW rim観察とSFT数密度測定と貴ガス段階加熱分析を行った.
試料と分析方法
我々は専用FIB-SEMホルダーと作業手順の開発を行い,TEM観察と貴ガス質量分析を両立した.8試料は約1 µm厚切片をJEOL JIB-4501試料加工観察装置(FIB-SEM)で作成しJEOL JEM-1300NEFでSFT計測後,同装置で約0.1 µmに薄化しFEI Tecnai G2-F20とJEOL ARM-200Fで再度SFT計測と表面付近の高倍率観察を,4試料は0.1 µm厚薄片を作成しSFT計測と表面付近の高倍率観察を行った.FIB加工後試料はアセトン可溶樹脂をグローブボックス内で洗浄除去し貴ガス質量分析ホルダにセットしVG−5400質量分析器に接続,段階加熱法を用いて貴ガス質量分析を行った.研究したイトカワ粒子は走査電子顕微鏡で撮影した2次元像しか無いため,過去にSPring-8において放射光マイクロCTを行った72個のイトカワ粒子に対して[9]の方法を適用し,最大面積の2次元像(SEM像に対応する)から体積を最もよく再現できる条件を見出した.
結果と議論
12粒のSW rimの厚さはほぼ0−約60 nmまで見られ,7粒が30−60 nm厚だった.SFT数密度は切片から1本も同定できなかった試料から1.6 × 109 本/cm2までの違いが見られ,9試料では5 × 108−1.6 × 109本/cm2であった.SFTがほぼ計測できなかった試料は,高数密度の転位や積層欠陥が含まれる2試料と,[10]で報告されたステップを持つ粒子だった.4番目に総4He及び20Ne量が多かった粒子ではステップ上に多くのブリスターが見られた.170−1400℃の段階加熱において,12試料中最大の4He濃度を持つ試料は170−270℃で4Heの大部分を放出した.SFTが計測できなかった2試料は全温度範囲で4He放出量が少なかった.それ以外の試料では 250−600℃で4Heの放出が観測された.2試料は全温度範囲で4He放出量が少なかった.SW rimの厚さと単位体積当たりの4Heおよび20Ne量との間には相関はみられなかった.他方,SFT数密度と4He及び20Ne量との間には正の相関があった.
250℃以下で放出される4He及び20Ne量とSW rimの厚さに相関が見られなかった原因として,SW rimが粒子全体に一様に分布しているとは限らない可能性,SW rim中のHeとNeはイトカワ粒子がわずかに加熱を受けると容易に離脱する可能性,これらが複合した可能性が考えられる.SFT数密度と貴ガス総放出量に正の相関があることから,イトカワ粒子中の貴ガスの多くは,SW rimよりも深い所に存在する可能性が示唆される.
References
[1] Keller & McKay 1997 GCA 61, 2331. [2] Noguchi+ 2011 Science 333, 1121. [3] Thompson+ 2014 EPS 66, 89. [4] Matsumoto+ 2014 Icarus 257, 230. [5] Burgess & Stroud 2018 GCA 224, 64. [6] Gu+ 2022 GRL 49, e2022GL097875. [7] Keller+ 2021 MAPS 56, 1685. [8] Nagao+ 2011 Science 333, 1128. [9] Miyazaki+ 2023 EPS 75, 171. [10] Matsumoto+ 2016 GCA 187, 195.
大気の無い天体表面は,太陽風,太陽宇宙線,銀河宇宙線,メテオロイド高速衝突に曝され徐々に変化(宇宙風化)する.月レゴリス試料の研究から,マイクロメテオロイド高速衝突により蒸発した物質が凝縮した際にnmサイズの金属鉄(npFe0)が形成されるとされ,宇宙風化の主要因はマイクロメテオロイド高速衝突とされた[1].他方,小惑星イトカワ試料の研究から,小惑星での宇宙風化の主要因は太陽風照射損傷とされた[2]−[4].その後,月でも太陽風照射損傷も重要なことが示された[5], [6].
太陽風照射損傷層(SW rim)はレゴリス粒子が天体表面に存在する時に形成され,太陽宇宙線が鉱物中に形成する太陽フレアトラック(SFT)は深さ約1 cmに粒子が存在しても蓄積され得る.曝露年代が既知の月岩石を使い,SFT数密度と太陽曝露期間の関係が研究された [7].また,イトカワ粒子の貴ガス段階加熱放出パターンから,レゴリス層内での運動や粒子の摩耗という個々粒子の履歴が解明された[8].本研究では12個のイトカワ粒子について透過電子顕微鏡(TEM)によるSW rim観察とSFT数密度測定と貴ガス段階加熱分析を行った.
試料と分析方法
我々は専用FIB-SEMホルダーと作業手順の開発を行い,TEM観察と貴ガス質量分析を両立した.8試料は約1 µm厚切片をJEOL JIB-4501試料加工観察装置(FIB-SEM)で作成しJEOL JEM-1300NEFでSFT計測後,同装置で約0.1 µmに薄化しFEI Tecnai G2-F20とJEOL ARM-200Fで再度SFT計測と表面付近の高倍率観察を,4試料は0.1 µm厚薄片を作成しSFT計測と表面付近の高倍率観察を行った.FIB加工後試料はアセトン可溶樹脂をグローブボックス内で洗浄除去し貴ガス質量分析ホルダにセットしVG−5400質量分析器に接続,段階加熱法を用いて貴ガス質量分析を行った.研究したイトカワ粒子は走査電子顕微鏡で撮影した2次元像しか無いため,過去にSPring-8において放射光マイクロCTを行った72個のイトカワ粒子に対して[9]の方法を適用し,最大面積の2次元像(SEM像に対応する)から体積を最もよく再現できる条件を見出した.
結果と議論
12粒のSW rimの厚さはほぼ0−約60 nmまで見られ,7粒が30−60 nm厚だった.SFT数密度は切片から1本も同定できなかった試料から1.6 × 109 本/cm2までの違いが見られ,9試料では5 × 108−1.6 × 109本/cm2であった.SFTがほぼ計測できなかった試料は,高数密度の転位や積層欠陥が含まれる2試料と,[10]で報告されたステップを持つ粒子だった.4番目に総4He及び20Ne量が多かった粒子ではステップ上に多くのブリスターが見られた.170−1400℃の段階加熱において,12試料中最大の4He濃度を持つ試料は170−270℃で4Heの大部分を放出した.SFTが計測できなかった2試料は全温度範囲で4He放出量が少なかった.それ以外の試料では 250−600℃で4Heの放出が観測された.2試料は全温度範囲で4He放出量が少なかった.SW rimの厚さと単位体積当たりの4Heおよび20Ne量との間には相関はみられなかった.他方,SFT数密度と4He及び20Ne量との間には正の相関があった.
250℃以下で放出される4He及び20Ne量とSW rimの厚さに相関が見られなかった原因として,SW rimが粒子全体に一様に分布しているとは限らない可能性,SW rim中のHeとNeはイトカワ粒子がわずかに加熱を受けると容易に離脱する可能性,これらが複合した可能性が考えられる.SFT数密度と貴ガス総放出量に正の相関があることから,イトカワ粒子中の貴ガスの多くは,SW rimよりも深い所に存在する可能性が示唆される.
References
[1] Keller & McKay 1997 GCA 61, 2331. [2] Noguchi+ 2011 Science 333, 1121. [3] Thompson+ 2014 EPS 66, 89. [4] Matsumoto+ 2014 Icarus 257, 230. [5] Burgess & Stroud 2018 GCA 224, 64. [6] Gu+ 2022 GRL 49, e2022GL097875. [7] Keller+ 2021 MAPS 56, 1685. [8] Nagao+ 2011 Science 333, 1128. [9] Miyazaki+ 2023 EPS 75, 171. [10] Matsumoto+ 2016 GCA 187, 195.
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