講演情報

[R5-04]BrownleeiteとLIME olivineの結晶方位関係に関する考察

*立岡 浩一1、渥美  千尋2、大石  康介2、川口  煌太2、柴田 千歳2、齋藤  晴太2、藤間 信久1 (1. 静岡大学・院工、2. 静岡大学・ダビンチキッズ)
PDFダウンロードPDFダウンロード

キーワード:

ブラウンリーアイト、LIME型オリビン、エピタキシャル関係

彗星26P/Grigg-Skjellerupに由来する惑星間塵(IDP)中に,マンガンシリサイド相「Brownleeite」が発見された.このシリサイドは鉄およびクロムをわずかに含み,酸素を含まない金属ケイ化物であり,その組成は Mn₀.₇₇Fe₀.₁₈Cr₀.₀₅Si である[1].さらに注目されるのは,Brownleeiteの周囲をMnを多く含むオリビン(LIME olivine)が殻状に取り囲んでおり,両結晶の間にエピタキシャル関係,すなわちBrownleeiteの(200)面に垂直な方向とLIME olivineのc*軸が平行であるという関係が成立している点である.このような構造の形成過程や,それをもたらした生成環境に関心が寄せられている.
 エピタキシャル成長によって確立される結晶方位関係は,基板となる結晶核の表面状態,成長時の温度・圧力,原子や分子の供給速度,供給元素の比率など,さまざまな因子に依存する.そのため,結晶方位関係の解析は,結晶成長条件の理解において重要である.
 ここでは回折像による直接観察ではなく,記録された高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)像のフーリエ変換(FFT)パターンをもとに,両結晶の構造および方位関係の整合性を検討した.参考文献 [2] に示されたIDP L2055 I3試料のHRTEM像からFFTパターンを作成し,MnSiおよびMg₂SiO₄(フォルステライト)の結晶構造および原子配列に基づいて結晶面の指数付けを行った.
 得られたFFTパターンにはMg₂SiO₄に対応するスポットが確認された.一方,MnSiの単位格子に対応する明瞭なスポットは観察されなかったが,代わりにそのちょうど4倍に相当する長周期構造のスポットが観察された.これは,BrownleeiteとLIME olivineという異なる結晶格子が観察方向に重なり,モアレ構造による干渉性FFTパターンが生じた結果である.この解析から得られた両結晶の方位関係は,(111), [-101]MnSi // (100), [011]Mg₂SiO₄,特に (1-11)MnSi // (1-11)Mg₂SiO₄ と整理される.また,d(111)MnSi (0.26 nm) × 4 ≈ d(100)Mg₂SiO₄ (1.02 nm),d(1-11)MnSi (0.26 nm) × 4 ≈ d(1-11)Mg₂SiO₄ (0.34 nm) × 3 という格子整合(lattice-commensurate condition)が成立しており,このわずかなミスマッチがモアレ像形成の要因である.参考文献 [1,2] に報告されている結晶方位関係は,今回のFFTパターンでは確認できなかった.これは,用いたHRTEM像がMnSiの結晶面を明確に識別できるほどの高解像度ではなく[2],MnSiの単位格子に由来するFFTスポットが明瞭に現れなかったためと考えられる.一方で長周期構造が強調され,モアレ像は明瞭に確認されている.このように高い整合性を持つ方位関係が成立するためには,Brownleeite表面において明瞭な周期を示す表面構造が保たれ,LIME olivineが高品質に成長可能な環境条件が整っていたと推察される.
 また,モアレ像が観察されている領域は,ふたつの結晶が観察方向に重なった領域であることにも注目したい.主たる方位関係は参考文献 [1,2] に報告されているとおりであるが,界面付近の局所領域では,Brownleeiteの結晶方位が再配列された可能性も否定できない.LIME Olivineの堆積後,この系が一時的に高温にさらされた場合,より安定なLIME Olivine相に整合するよう,MnSi中の原子が再配列した可能性が考えられる.さらに注目すべき点として,MnSiにおいて格子整合(lattice-commensurate condition)による長周期構造が形成されていることが挙げられる.MnSiはSkyrmionという特異な磁気的性質を示す物質であり,結晶の長周期的な構造変調による磁性制御が期待される.
参考文献 1) Keiko Nakamura-Messenger et al., American Mineralogist, 95 (2010) 221–228.2) Keiko Nakamura-Messenger et al., 39th Lunar and Planetary Science Conference (2008), p.2103.
謝辞 静岡大学ダビンチキッズプロジェクトの開催にご尽力いただきました今野君代様,石津珠己様に深く感謝申し上げます.

コメント

コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン