講演情報
[R5-08]NWA 13363アングライトに含まれるモザイク状のかんらん石外来結晶
*林 秀幸1、本田 陸人2、三河内 岳3 (1. 国立科博、2. 東大・院理、3. 東大・総研博)
キーワード:
NWA 13363、アングライト、外来結晶、再結晶化、冷却速度
はじめに:
アングライトは、太陽系最初期に形成された原始惑星の地殻に由来する、最古の分化隕石の一種である。アングライトには、伸長した鉱物結晶を特徴とする急冷組織と、比較的等粒状の徐冷組織を示すものが存在する。このうち、急冷アングライトはその結晶化年代がおよそ4564 Maと極めて古く(e.g., Amelin, 2008)、太陽系最初期における原始惑星の地殻形成過程を保持する数少ない試料と考えられる。
本研究では、急冷アングライトのNWA 13363に認められたモザイク状のかんらん石外来結晶に着目し、鉱物学的特徴を明らかにするとともに、その生成メカニズムについて考察を行う。
試料と手法:
本研究では、NWA 13363の薄片試料を対象とし、光学顕微鏡による観察を行った。微細組織観察および化学組成分析には電子プローブマイクロアナライザー(JEOL JXA-8230@国立科博、JEOL JXA-8200@極地研)を、鉱物相同定にはPhoton Design社製の顕微ラマン分光装置@国立科博を使用した。
結果:
NWA 13363のマトリックスは、主にかんらん石・灰長石・単斜輝石から構成され、オフィティック組織を示す。かんらん石の斑晶は約200 µmの丸みを帯びた形状を示すものが多く、組成はFo67Fa32La1 - Fo0Fa82La18 - Fo5Fa57La38と変化する。灰長石(An99.5-100)はやや伸長した形状を示し、最大で長さ500 µm、幅100 µmに達する。単斜輝石は透輝石または灰鉄輝石に相当し(Mg# = 61 - 0)、最大1 mmである。
外来結晶としてはかんらん石のみが見出され、大きさが1 mmを超える不定形の大型結晶と、斑晶中にみられる小型結晶の2種類が確認された。大型の外来結晶のうち1粒はモザイク状組織を呈し、内部は大きさが約20 – 100 µmの再結晶化した微細なかんらん石で構成されている(図)。それぞれの粒子の結晶方位に関連性は見られない。また、微細なかんらん石の粒間を透輝石(Mg# = 82)と約30 µmの不定形の気泡が埋めており、その他に微細なクロム鉄鉱や含Niトロイリ鉱が観察された。この外来結晶の周囲には、それを核として斑晶が結晶化した組織が見られる。
化学組成について、大型の外来結晶はFo83の均質なコアのものが3粒子、小型の外来結晶にはFo80およびFo84のコア組成のものが見られた。モザイク状外来結晶では、内部の再結晶化した微細なかんらん石において、コアからリムにかけてFo88 - Fo75の変化が観察され、またその粒間ではFe-Mgの元素拡散が確認された。
Fo83の均質なかんらん石外来結晶2粒子について、1400 ℃から900 ℃への単調冷却を仮定してFe-Mg拡散から冷却速度を求めると、それぞれ60 ℃/hr、210 ℃/hr となった。一方、モザイク状外来結晶中の、再結晶化した微細なかんらん石間のFe-Mg拡散から冷却速度を定量的に求めることは困難であるが、Fe-Mgの拡散状況から推測すると、モザイク状外来結晶も均質な外来結晶と同程度の冷却速度を経験したと考えられた。
議論と結論:
NWA13363において観察されたモザイク状のかんらん石外来結晶は、Asuka-881371において報告されたキンクバンドや部分的な再結晶化を伴うもの(Mikouchi et al., 1996)とは組織的に異なる。一方、NWA 12320(Rider-Stokes et al., 2023)やD’Orbigny(Varela et al., 2017)に見られる、全面的に再結晶化したかんらん石外来結晶とは類似するが、NWA 12320では結晶粒径が約500 µmと小さく、外来結晶を核とした斑晶の成長が見られない点、D’Orbignyでは再結晶化した微細なかんらん石に粒径の不均質が存在する点が異なる。
かんらん石は高温又は高圧下で再結晶化することが知られている(Trepmann et al., 2013)。しかし、モザイク状のかんらん石外来結晶と、均質なかんらん石外来結晶は、いずれも同程度の急速な冷却を記録している事から、メルト中に取り込まれた後の冷却速度や滞留時間の差によってモザイク化の有無が決定したとは考えにくい。むしろ、メルトに取り込まれた段階で、コア組成やモザイク状組織の有無が異なっていた可能性が高いと推察される。
さらに、モザイク状のかんらん石外来結晶の組織は、衝撃溶融により全溶融を経験したかんらん石と類似している(Stöffler et al., 1991)。母天体内部の熱や圧力によりモザイク化が生じたと仮定すると、再結晶化した微細なかんらん石に化学組成の変化が保存されている点を説明する事が難しい。このことから、モザイク状のかんらん石外来結晶の成因は衝撃溶融からの再結晶化による可能性が高いと考えられる。
アングライトは、太陽系最初期に形成された原始惑星の地殻に由来する、最古の分化隕石の一種である。アングライトには、伸長した鉱物結晶を特徴とする急冷組織と、比較的等粒状の徐冷組織を示すものが存在する。このうち、急冷アングライトはその結晶化年代がおよそ4564 Maと極めて古く(e.g., Amelin, 2008)、太陽系最初期における原始惑星の地殻形成過程を保持する数少ない試料と考えられる。
本研究では、急冷アングライトのNWA 13363に認められたモザイク状のかんらん石外来結晶に着目し、鉱物学的特徴を明らかにするとともに、その生成メカニズムについて考察を行う。
試料と手法:
本研究では、NWA 13363の薄片試料を対象とし、光学顕微鏡による観察を行った。微細組織観察および化学組成分析には電子プローブマイクロアナライザー(JEOL JXA-8230@国立科博、JEOL JXA-8200@極地研)を、鉱物相同定にはPhoton Design社製の顕微ラマン分光装置@国立科博を使用した。
結果:
NWA 13363のマトリックスは、主にかんらん石・灰長石・単斜輝石から構成され、オフィティック組織を示す。かんらん石の斑晶は約200 µmの丸みを帯びた形状を示すものが多く、組成はFo67Fa32La1 - Fo0Fa82La18 - Fo5Fa57La38と変化する。灰長石(An99.5-100)はやや伸長した形状を示し、最大で長さ500 µm、幅100 µmに達する。単斜輝石は透輝石または灰鉄輝石に相当し(Mg# = 61 - 0)、最大1 mmである。
外来結晶としてはかんらん石のみが見出され、大きさが1 mmを超える不定形の大型結晶と、斑晶中にみられる小型結晶の2種類が確認された。大型の外来結晶のうち1粒はモザイク状組織を呈し、内部は大きさが約20 – 100 µmの再結晶化した微細なかんらん石で構成されている(図)。それぞれの粒子の結晶方位に関連性は見られない。また、微細なかんらん石の粒間を透輝石(Mg# = 82)と約30 µmの不定形の気泡が埋めており、その他に微細なクロム鉄鉱や含Niトロイリ鉱が観察された。この外来結晶の周囲には、それを核として斑晶が結晶化した組織が見られる。
化学組成について、大型の外来結晶はFo83の均質なコアのものが3粒子、小型の外来結晶にはFo80およびFo84のコア組成のものが見られた。モザイク状外来結晶では、内部の再結晶化した微細なかんらん石において、コアからリムにかけてFo88 - Fo75の変化が観察され、またその粒間ではFe-Mgの元素拡散が確認された。
Fo83の均質なかんらん石外来結晶2粒子について、1400 ℃から900 ℃への単調冷却を仮定してFe-Mg拡散から冷却速度を求めると、それぞれ60 ℃/hr、210 ℃/hr となった。一方、モザイク状外来結晶中の、再結晶化した微細なかんらん石間のFe-Mg拡散から冷却速度を定量的に求めることは困難であるが、Fe-Mgの拡散状況から推測すると、モザイク状外来結晶も均質な外来結晶と同程度の冷却速度を経験したと考えられた。
議論と結論:
NWA13363において観察されたモザイク状のかんらん石外来結晶は、Asuka-881371において報告されたキンクバンドや部分的な再結晶化を伴うもの(Mikouchi et al., 1996)とは組織的に異なる。一方、NWA 12320(Rider-Stokes et al., 2023)やD’Orbigny(Varela et al., 2017)に見られる、全面的に再結晶化したかんらん石外来結晶とは類似するが、NWA 12320では結晶粒径が約500 µmと小さく、外来結晶を核とした斑晶の成長が見られない点、D’Orbignyでは再結晶化した微細なかんらん石に粒径の不均質が存在する点が異なる。
かんらん石は高温又は高圧下で再結晶化することが知られている(Trepmann et al., 2013)。しかし、モザイク状のかんらん石外来結晶と、均質なかんらん石外来結晶は、いずれも同程度の急速な冷却を記録している事から、メルト中に取り込まれた後の冷却速度や滞留時間の差によってモザイク化の有無が決定したとは考えにくい。むしろ、メルトに取り込まれた段階で、コア組成やモザイク状組織の有無が異なっていた可能性が高いと推察される。
さらに、モザイク状のかんらん石外来結晶の組織は、衝撃溶融により全溶融を経験したかんらん石と類似している(Stöffler et al., 1991)。母天体内部の熱や圧力によりモザイク化が生じたと仮定すると、再結晶化した微細なかんらん石に化学組成の変化が保存されている点を説明する事が難しい。このことから、モザイク状のかんらん石外来結晶の成因は衝撃溶融からの再結晶化による可能性が高いと考えられる。
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