講演情報

[R5-09]放射光ナノCTとEBSDを組み合わせた微細結晶構造解析によるY-8448ユレイライト中ダイヤモンド形成過程の考察

*安武 正展1、松本 恵2、松野 淳也3、𡈽山 明4,5、上杉 健太朗1、竹内 晃久1、山口 亮6 (1. 高輝度光科学研究センター、2. 東北大、3. 京都大、4. 立命館大、5. 広州地球化学研究所、6. 国立極地研究所)
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キーワード:

ユレイライト、ダイヤモンド、放射光X線CT、EBSD

はじめに:ユレイライトはエコンドライトの一種であり多量の炭素質物質を含むことが特徴的である。またダイヤモンドを含むことが知られており、その形成過程について議論が続いている[e.g. 1, 2]。我々は、放射光CTによってユレイライト中の炭素質物質を3次元観察し、これまで認識されていなかった複雑かつ多様な組織が存在する事を明らかにした。本件で対象とするYamato (Y)-8448は、カンラン石が強い波状消光を示さず、強い衝撃を受けていないことが推測されている。また格子状組織をもつダイヤモンドを多量に含み、多孔質な領域が見られるなど非常に特徴的な炭素質物質の産状をもつ[3]。 構成鉱物の結晶方位関係は、このような複雑組織を理解する上で非常に重要である。本件では放射光ナノCTにより内部構造観察を行った試料の結晶方位情報をEBSD法により分析した。その結果と3次元組織を組み合わせることでY-8448中炭素質物質の形成過程をより詳細に描画する事を試みた。 試料と分析手法:微小試料は、SPring-8に設置されているFIBを用いて薄片試料から作成した。試料サイズは約40µmである。放射光CT撮影はSPring-8、BL47XUにて行った。その後FIBにより特定の試料断面を作成し、国立極地研究所に設置されているFE-SEM-EBSD装置を用いて結晶情報の解析を行った。 
結果と考察
:EBSD分析の結果、グラファイト(Gr)とダイヤモンド(D)の明瞭なEBSPが得られた。一方、ダイヤモンド中もしくは、ダイヤモンド領域とグラファイト領域の境界に産する低密度炭素質物質からはEBSPが確認できず、これらはアモルファスカーボンである事が示唆される。 ダイヤモンド結晶は約±5°以内で連続的な方位差が見られるものの、微小試料内では同一結晶方位特性を持っており単結晶的である(図1)。ダイヤモンドの結晶方位とCT像にて確認される組織を解析した結果、この組織を特徴づけるダイヤモンドの面のほとんどが{111}であることが確認された(図2)。即ちY-8448中のダイヤモンドは、結晶成長の途上で形成された{111}の面間に流体を取り込むことで面状組織を発達させたことが推測される。また、一部には双晶も見られた。双晶は{111}で接合しており、<111>を軸に180°回転した結晶方位関係を持っており、ダイヤモンドに典型的なスピネル式双晶であった。 グラファイトは、ほぼ単結晶的であるが歪みが見られる。これは、CT像にて確認された層状組織およびキンク組織と調和的である。グラファイトとダイヤモンドの結晶方位関係を分析した結果、マルテンサイト的相転移にてグラファイトからダイヤモンドが直接相転移した場合に想定されるGr{0001}//D{111}のような結晶方位関係は確認されなかった。 これらの結果は、現在ユレイライト中ダイヤモンドの形成過程として広く受け入れられている、天体衝突時の衝撃波によってマルテンサイト的相転移によりダイヤモンドが生成したとする仮説、もしくは気相成長により結晶化したとする仮説とは不調和的である。我々は、Y-8448中のダイヤモンドの形成過程として、流体が関与する生成過程を以下に提案する。1)火成作用により炭素がグラファイトとして結晶化する。2)鉄を含むC-O-H-S流体中でグラファイトが溶解し、その流体中からダイヤモンドが晶出する(dissolution and growth)。3)ダイヤモンドは、流体を取り込みながら結晶成長し、格子状組織をもつ平行連晶が形成される。4)母天体が高温時に経験したとされる破滅的崩壊によって、高温低圧環境に急激に変化する。この時の衝撃により、グラファイトのキンク、ダイヤモンド結晶の歪みが形成された可能性が考えられる。5)一部のダイヤモンドは高温低圧環境にさらされることにより流体と再反応し境界領域にみられる多孔質ダイヤモンドや再吸収組織に類似する構造が形成される。6)母天体崩壊後の急冷によって残存していた流体がアモルファスカーボンとして固化する。 ここで提唱するような軽元素主体の流体が関与するプロセスは分化天体では解明されていない部分が多い。今後の研究によって天体分化過程における詳細な軽元素移動過程が明らかとなることが期待される。参考文献:[1] Nakamuta et al. (2016) JMPS, 111, 252-269. [2] Nestola et al. (2020) PNAS, 117(41), 25310-25318.[3] 安武ほか. (2024) 日本鉱物科学会2024年年会要旨

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