講演情報
[R5-11]リュウグウ試料のナトリウム塩鉱物の記載
*松本 徹1、野口 高明2、三宅 亮2 (1. 京都大学・白眉、2. 京都大学・理学)
キーワード:
リュウグウ
リュウグウ試料の研究により、ナトリウムを含む炭酸塩、塩化物、硫酸塩の存在が報告され、母天体内部でのアルカリ性かつ塩類に富む水の存在が示唆された [1]。これらのナトリウム塩鉱物の析出には、塩水の蒸発や凍結に伴う塩水中の化学組成の変化が関連していたと考えられる。同種のナトリウム塩鉱物は、小惑星ベンヌの試料からも報告されており [2]、炭素質小惑星における水環境の共通性を理解する手がかりとなる。しかし、リターンサンプルにおけるナトリウム塩鉱物に関する記載は始まったばかりであり、今後の詳細な観察が求められている。本研究ではこれまでにナトリウム炭酸塩が見つかったリュウグウ粒子を対象にして、ナトリウム炭酸塩とその周囲の鉱物のさらなる分析を行なった。
方法 リュウグウ試料C0071の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、ナトリウムに富む領域を探索した。続いて集束イオンビーム(FIB)を用いて、粒子表面から複数の切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)によって詳細な構造および鉱物組成の観察を行った。
結果 C0071粒子は、主に層状ケイ酸塩(サポナイトおよび蛇紋石)、鉄・ニッケルを含む硫化鉄、磁鉄鉱、Ca-Mg炭酸塩から構成されており、水質変成が進行した岩相であった。層状ケイ酸塩の表面には、ナトライト(Na₂CO₃)の集合体が分布していた。ナトライトは、Na-Mgリン酸塩と層状ケイ酸塩の隙間を埋める脈状組織としても観察された。さらに、ナトライトに隣接する領域では、電子回折図形によりテナルダイト(Na₂SO4)の存在も確認された。約1 µmの方解石(CaCO₃)粒子がナトライト粒子と接して存在している様子も見られた。
考察 ナトリウム炭酸塩および硫酸塩は、水質変成の最終段階において、液体の水の蒸発または凍結によって形成された可能性がある[1]。今回、リュウグウでは報告されておらずベンヌに見つかっていたテナルダイトを同定したことで両者の母天体の水環境の類似性を示唆する結果となった。小惑星ベンヌの試料には、リュウグウには見られないNa-Ca炭酸塩であるゲイリュサイトおよびピルソナイトが記載されている[2]。アルカリ性の塩水が蒸発する過程において、ゲイリュサイトの溶解を経て方解石が生成される可能性があることから [3]、リュウグウ試料においてナトライトと共存する方解石は、水質変成の後期段階にNa-Ca炭酸塩から形成されたかもしれない。リュウグウに含まれる大部分の方解石は比較的初期の水質変成によって形成されたと考えられるが[4]、変成の後期の段階においても形成する可能性がある。
Reference [1] Matsumoto, T., et al. (2024). Nature Astronomy, 8, 1536-1543. [2] McCoy, T. J., et al. (2025) Nature, 637(8048), 1072-1077. [3] Toner, J., D., et al. (2020) PNAS, 117. 2.,883-888. [4]Fujiya, W., et al. (2023) Nature Geoscience, 16.8, 675-682.
方法 リュウグウ試料C0071の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、ナトリウムに富む領域を探索した。続いて集束イオンビーム(FIB)を用いて、粒子表面から複数の切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)によって詳細な構造および鉱物組成の観察を行った。
結果 C0071粒子は、主に層状ケイ酸塩(サポナイトおよび蛇紋石)、鉄・ニッケルを含む硫化鉄、磁鉄鉱、Ca-Mg炭酸塩から構成されており、水質変成が進行した岩相であった。層状ケイ酸塩の表面には、ナトライト(Na₂CO₃)の集合体が分布していた。ナトライトは、Na-Mgリン酸塩と層状ケイ酸塩の隙間を埋める脈状組織としても観察された。さらに、ナトライトに隣接する領域では、電子回折図形によりテナルダイト(Na₂SO4)の存在も確認された。約1 µmの方解石(CaCO₃)粒子がナトライト粒子と接して存在している様子も見られた。
考察 ナトリウム炭酸塩および硫酸塩は、水質変成の最終段階において、液体の水の蒸発または凍結によって形成された可能性がある[1]。今回、リュウグウでは報告されておらずベンヌに見つかっていたテナルダイトを同定したことで両者の母天体の水環境の類似性を示唆する結果となった。小惑星ベンヌの試料には、リュウグウには見られないNa-Ca炭酸塩であるゲイリュサイトおよびピルソナイトが記載されている[2]。アルカリ性の塩水が蒸発する過程において、ゲイリュサイトの溶解を経て方解石が生成される可能性があることから [3]、リュウグウ試料においてナトライトと共存する方解石は、水質変成の後期段階にNa-Ca炭酸塩から形成されたかもしれない。リュウグウに含まれる大部分の方解石は比較的初期の水質変成によって形成されたと考えられるが[4]、変成の後期の段階においても形成する可能性がある。
Reference [1] Matsumoto, T., et al. (2024). Nature Astronomy, 8, 1536-1543. [2] McCoy, T. J., et al. (2025) Nature, 637(8048), 1072-1077. [3] Toner, J., D., et al. (2020) PNAS, 117. 2.,883-888. [4]Fujiya, W., et al. (2023) Nature Geoscience, 16.8, 675-682.