講演情報
[R5-19]低圧環境下でのプレソーラーSiC粒子破壊プロセスに関する実験的研究
*山本 大貴1、瀧川 晶2、石崎 梨理2、櫻井 亮輔3、井上 裕貴1、山本 順司1、荒川 創太4、橘 省吾2 (1. 九州大学、2. 東京大学、3. 宇宙航空研究開発機構、4. 海洋研究開発機構)
キーワード:
プレソーラー粒子、炭化ケイ素、蒸発、反応速度論、原始太陽系円盤
始原的隕石中に含まれるプレソーラー炭化ケイ素 (SiC) 粒子は、酸化的な原始太陽系円盤ガス中では熱力学的不安定であり蒸発を起こす (Larimer & Bartholomay, 1979)。ゆえに、原始太陽系円盤内でのダストの集積以前の熱履歴を記録する有力な指標となり得る。Menydybaev et al. (2002) では、様々な温度条件下で、酸素分圧を制御した1気圧の混合ガス中でSiCの蒸発反応実験をおこなわれた。しかしながら、こうした1気圧で得られた速度論的データは、低圧の円盤条件には適用できない可能性がある。さらに、原始太陽系円盤中でのプレソーラーSiCの残存可能性を、他の種類のプレソーラー粒子 (例えば、始原的隕石中で豊富に存在するプレソーラー非晶質ケイ酸塩粒子; Floss and Haenecour, 2018 and references therein) と比較することで、プレソーラーSiCの相対的な残存量が円盤でのダスト熱履歴を示す指標となる可能性がある。本研究では、原始太陽系円盤内でのSiCの蒸発反応機構および速度論を明らかにし、プレソーラーSiCの相対的な残存量を定量的に評価することを目的として、低圧水素-水蒸気混合ガス中でのSiC蒸発実験を行った。
実験は、H2-H2O混合ガス供給機構を備えた真空高温加熱炉を用いて、全圧 (Ptot) 0.5 および 2.5 Paの水素-水蒸気混合ガス中で実施した。試料は、多結晶b (3C)-SiCのプレートから切り出した約4 × (4–5) × 0.6 mmのチップを用いた。実験は以下の3つ条件でおこなった: (1) Ptot = 0.5 Pa, H2/H2O ~52 ± 5、(2) Ptot = 2.5 Pa, H2/H2O ~140 ± 17、(3) Ptot = 2.5 Pa, H2/H2O ~75 ± 4。H2/H2O比は、金属鉄とケイ酸塩メルトとの熱力学的平衡反応より決定した。これらの酸化還元条件は、原始太陽系円盤の条件 (太陽系元素存在度に対してH2O濃集度が1–10倍. i.e., H2/H2O ~200–2000; Lodders, 2003; Cuzzi and Zahnle, 2004; Ciesla & Cuzzi, 2006)) と同程度、あるいはやや酸化的である。いくつかのサンプルに関してFIB切片を作成し、透過型電子顕微鏡 (STEM-EDS; JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。マイクロラマン分光測定により最表面の相同定も実施した。
STEM-EDS分析の結果、試料の表面には酸化物層は形成されていなかった。一方で一部の試料最表面には、多孔質で炭素に富む層が観察された。この結果は、ラマン分光測定による結果とも整合的である。質量変化から推定した蒸発フラック (J) は、~1610–1670 Kより高温では温度依存性が小さい一方、より低温領域では顕著な温度依存性を示した。高温領域でのJのPH2O依存性は、低圧条件でSiC表面への水蒸気供給量が反応律速段階であることを示唆する。一方、低温領域では、表面での化学反応プロセスが反応律速段階で可能性がある。低温領域で得られた活性化エネルギー (Ea) は ~775–1141 kJ mol–1であり、先行研究より極めて大きい(Kim, 1987: ~460 kJ mol–1; Mendybaev et al., 2002: 556 kJ mol–1)。本実験の酸化還元状態を考慮すると、極めて高いEaの値は、SiO2形成を伴う蒸発反応と伴わない蒸発反応との遷移状態に関係していると考えられる。ダストの不可逆化学反応を取り入れた定常降着円盤モデル (Ishizaki et al., 2023) を用いて、本結果より得られたプレソーラーSiC粒子の残存可能性を、円盤水蒸気ガスとの酸素同位体交換により同位体的特徴を失うプレソーラー非晶質ケイ酸塩粒子の場合 (Yamamoto et al., 2020, 2024) と比較した。その結果、プレソーラーSiC粒子の顕著な蒸発は~1200–1400 Kで進行し、プレソーラー非晶質ケイ酸塩粒子は~600–800 Kで酸素同位体特徴を失うことが示された。600–800 Kより低温領域では、初期値で規格化したプレソーラーケイ酸塩/SiC粒子数の比は、太陽からの距離 (r) の増加とともに増加し、r > 4–5 auでは0.7–0.9の値に達した。惑星間塵(IDP) のプレソーラーケイ酸塩/SiC比が~6であり (Leitner et al., 2012)、この値が初期値であると仮定した場合、IDPで規格された始原的隕石中のその比率は~0.15–1となる。高いプレソーラーケイ酸塩/SiC比(>~0.7)を示す隕石 (e.g., QUE 99177, DOM 08006) は、主に円盤温度が~300 K未満の太陽から~4–5 au以遠の領域に由来する物質を集積したと考えられる。
実験は、H2-H2O混合ガス供給機構を備えた真空高温加熱炉を用いて、全圧 (Ptot) 0.5 および 2.5 Paの水素-水蒸気混合ガス中で実施した。試料は、多結晶b (3C)-SiCのプレートから切り出した約4 × (4–5) × 0.6 mmのチップを用いた。実験は以下の3つ条件でおこなった: (1) Ptot = 0.5 Pa, H2/H2O ~52 ± 5、(2) Ptot = 2.5 Pa, H2/H2O ~140 ± 17、(3) Ptot = 2.5 Pa, H2/H2O ~75 ± 4。H2/H2O比は、金属鉄とケイ酸塩メルトとの熱力学的平衡反応より決定した。これらの酸化還元条件は、原始太陽系円盤の条件 (太陽系元素存在度に対してH2O濃集度が1–10倍. i.e., H2/H2O ~200–2000; Lodders, 2003; Cuzzi and Zahnle, 2004; Ciesla & Cuzzi, 2006)) と同程度、あるいはやや酸化的である。いくつかのサンプルに関してFIB切片を作成し、透過型電子顕微鏡 (STEM-EDS; JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。マイクロラマン分光測定により最表面の相同定も実施した。
STEM-EDS分析の結果、試料の表面には酸化物層は形成されていなかった。一方で一部の試料最表面には、多孔質で炭素に富む層が観察された。この結果は、ラマン分光測定による結果とも整合的である。質量変化から推定した蒸発フラック (J) は、~1610–1670 Kより高温では温度依存性が小さい一方、より低温領域では顕著な温度依存性を示した。高温領域でのJのPH2O依存性は、低圧条件でSiC表面への水蒸気供給量が反応律速段階であることを示唆する。一方、低温領域では、表面での化学反応プロセスが反応律速段階で可能性がある。低温領域で得られた活性化エネルギー (Ea) は ~775–1141 kJ mol–1であり、先行研究より極めて大きい(Kim, 1987: ~460 kJ mol–1; Mendybaev et al., 2002: 556 kJ mol–1)。本実験の酸化還元状態を考慮すると、極めて高いEaの値は、SiO2形成を伴う蒸発反応と伴わない蒸発反応との遷移状態に関係していると考えられる。ダストの不可逆化学反応を取り入れた定常降着円盤モデル (Ishizaki et al., 2023) を用いて、本結果より得られたプレソーラーSiC粒子の残存可能性を、円盤水蒸気ガスとの酸素同位体交換により同位体的特徴を失うプレソーラー非晶質ケイ酸塩粒子の場合 (Yamamoto et al., 2020, 2024) と比較した。その結果、プレソーラーSiC粒子の顕著な蒸発は~1200–1400 Kで進行し、プレソーラー非晶質ケイ酸塩粒子は~600–800 Kで酸素同位体特徴を失うことが示された。600–800 Kより低温領域では、初期値で規格化したプレソーラーケイ酸塩/SiC粒子数の比は、太陽からの距離 (r) の増加とともに増加し、r > 4–5 auでは0.7–0.9の値に達した。惑星間塵(IDP) のプレソーラーケイ酸塩/SiC比が~6であり (Leitner et al., 2012)、この値が初期値であると仮定した場合、IDPで規格された始原的隕石中のその比率は~0.15–1となる。高いプレソーラーケイ酸塩/SiC比(>~0.7)を示す隕石 (e.g., QUE 99177, DOM 08006) は、主に円盤温度が~300 K未満の太陽から~4–5 au以遠の領域に由来する物質を集積したと考えられる。