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[R5-P-03]H5コンドライトに見られる衝撃溶融組織の特徴

*新原 隆史1、小西 里空1 (1. 岡山理科大学)
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キーワード:

Hコンドライト、衝撃溶融

衝撃溶融を経験したコンドライトは、初期太陽系内での衝突史を明らかにするうえで重要である。コンドライトの岩石学的タイプや衝撃変成度は、岩石の組織や組成の平衡化、鉱物の結晶構造などにより決定されている [1-3]。Bischoff et al. (2019) [4]は、同一の岩石内でも衝撃変成の度合いは場所により異なることを指摘している。平衡コンドライトであるH5コンドライトに分類される隕石の中から、衝撃溶融岩であるものがいくつか確認されており [5, 6] 、平衡Hコンドライトと分類された隕石には多くの衝撃溶融岩が存在している可能性がある。本研究では、H5コンドライトにおける衝撃溶融の痕跡について報告する。
 Zagは角礫岩のコンドライトであり、複数種のコンドライト片(タイプ3-6)を含んでいる。この中で本研究では暗灰色の岩片を使用した。この岩片には、不規則な形状をした粗粒のかんらん石や輝石の間隙を、細粒鉱物とガラスからなる基質が充填した組織が観察される[7]。細粒の鉱物は自形から半自形を示す鉱物が多く、中心からリムにかけて組成が異なる累帯構造を示す。これは衝撃溶融によるオーバーグロースであると考えられる。Peekskill(H5)は、全体が白色を呈し、岩石全体は均一な組織を示すようにみえるが、薄片による観察では、局所的に衝撃によって溶融したメルトポケットが存在し、ホストとの境界は不明瞭である。溶融脈は、ガラス質のマトリックスに丸みを帯びた鉱物から構成される。Gao-Guenie(H5)には、暗色の衝撃溶融物と暗灰色のホストのコンドライトが含まれる。ホストと溶融物の境界には、微細な鉱物と金属・硫化物の薄い脈からなる急冷組織が観察されるが、溶融物中には溶け残り鉱物はほとんど存在しない。ホストコンドライト中にも溶融脈が観察されるが、黒色の溶融部から連続的に存在し、溶け残りのコンドライト片が確認できることから、ホスト中に溶融物が貫入したと考えられる。
 一部の衝撃溶融岩は元のコンドライト構造を維持しており、例えばYamato(Y)-791088は溶融した特徴がみられるが、コンドルールの形状を維持しており、一見平衡コンドライトに見えるが、初期分類では衝撃溶融岩としては分類されていない。 [6]。一方、LaPaz Ice Field (LAP)02240のように、岩石全体に衝撃溶融組織を有するサンプルは、衝撃溶融岩として分類される[6]。Gao-Guenieの溶融部分はLAP 02240と似た組織を有するが、試料の大部分がコンドライトのホスト岩であるため、H5コンドライトとして分類された。Zagの溶融部分は、Y-791088の溶融マトリックスと似た組織を有し、PeekskillとGao-Guenieに見られる溶融脈もまた同様の組織を示す。したがって、すべてのサンプルには衝撃溶融物が含まれてるが、母岩のサイズと量が異なるため、多くが平衡コンドライトとして記載されている。このため衝撃溶融物の同定はサンプルサイズを考慮する必要があり、より多くの平衡コンドライト中にも衝撃溶融物が存在することが示唆され、衝撃現象を明らかにする手掛かりを与える。
References: [1] Weisberg M. K. et al. (2006) in Meteorites and the Early Solar System, eds D. S. Lauretta, H. Y. J. McSween (The University of Arizona Press, Arizona), pp 19-52. [2] Stöffler D. et al., (1991) Geochimica et Cosmochimica Acta 55, 3845-3867. [3] Stöffler D. et al., (2017) Meteoritics & Planetary Science 53, 5-49. [4] Bischoff A. et al., (2019) Meteoritics & Planetary Science 54, 2189-2202. [5] Konishi R. et al., (2025) LPS LVI, Abstract #2080. [6] Niihara T. et al., (2011) Polar Science 4, 558-573. [7] Niihara T. et al., (2025) LPS LVI, Abstract #1678.