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[R5-P-05]玄武岩質シャーゴッタイトに見られる結晶化末期の特徴的な組織についての鉱物学的研究

*藤岡 真吾1、山﨑 奏次郎1、佐竹 渉2、山口 亮3、三河内 岳4 (1. 東大・院理、2. 千葉工大・地球学、3. 極地研、4. 東大・総研博)
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キーワード:

玄武岩質シャーゴッタイト、輝石、斜長石、シンプレクタイト、相互成長

はじめに:玄武岩質シャーゴッタイトは、主に輝石とマスケリナイトから成り、他のシャーゴッタイトグループよりもマグマ分化度が高い(e.g., Udry et al. 2020)。そのため、一部の試料では、輝石が著しく鉄に富み、細粒の鉄カンラン石+シリカ鉱物±CaFe輝石から構成される三相もしくは二相の微細なシンプレクタイト組織が観察される(e.g., Aramovich et al. 2002)。また、マスケリナイトには長石が分化した結果と考えられるカリ長石質ガラスとシリカ鉱物から成る相互成長(インターグロース)組織も含有されるものもある(e.g., Lindner et al. 2022)。しかし、玄武岩質シャーゴッタイト中の輝石シンプレクタイトや長石分化組織について総合的に検証した研究はほとんどない。そこで、本研究では、近年サハラ砂漠で発見された玄武岩質シャーゴッタイトを含めた7試料において、結晶化末期の特徴的組織の有無や特徴を試料ごとに比較して、火星マグマ分化・結晶分化度の違いを検証した。試料と分析手法:本研究には、NWA 2975、6963、13327、13716、14607、15016、Los Angelesの薄片試料を用いた。これらを光学顕微鏡およびFE-SEM(JEOL JSM7000F@東大)で詳細に観察した後、FE-EPMA (JEOL JXA-8530F@東大)およびEPMA(JEOL JXA-8200@極地研)で鉱物組成分析を行った。また、マスケリナイトの鉄価数をFe-XANESで測定し(高エネ研PF BL-4A)、酸化還元状態の比較も行った。結果:今回分析した試料には、(a)輝石シンプレクタイト、長石分化組織の両方とも存在しなかった試料、(b)輝石シンプレクタイトは無かったが、長石分化組織は存在した試料、(c)輝石シンプレクタイトと長石分化組織の両方が存在した試料の3種類が見られた。(a)はNWA 13716が該当し、輝石組成はEn30〜60Wo11~34であった。(b)はNWA 2975、NWA 6963、NWA 12985、NWA 13327、NWA 15016で、輝石組成はEn20〜60Wo4~40であった。(c)はNWA 14607とLos Angelesで、輝石は(a)、(b)より鉄に富むEn5〜55Wo11~38であった。マスケリナイト組成には、輝石組成との相関関係が見られ、(a)NWA 13716はAn57~66Or0~1で、(b)、(c)のAn44~59Or1~9よりCaに富み、Kに乏しい。長石分化組織を成すカリ長石質ガラスは、Los AngelesやNWA 6993のように幅広い組成(An3~43Or4~57)を持つものもあれば、NWA 2975では、Los AngelesやNWA 6993に近い組成(An11~13Or43~47)とさらにKに富む組成(An5~6Or67~72)を併せ持つなど多様であった。NWA 14607はAn9~15Or23~27で、他の試料よりNaに富む。マスケリナイトの全鉄に占める三価鉄の割合は(a)NWA 13716が0.12~0.16、(b)NWA 13327が 0.23~0.27、(c)NWA 14607が0.11~0.12であった。また、Aramovich et al. (2002)はLos Angelesは三相シンプレクタイトがメソスタシスと接している場合が多いと述べたが、本研究の(c)では二相シンプレクタイト組織が長石分化組織と隣接する場合が多かった。NWA 14607はLos Angelesと異なり、CaFe輝石と接さず三相シンプレクタイトが独立して見られる場合もあった。考察と結論:本研究では、複数の玄武岩質シャーゴッタイトを分析したことで、輝石とマスケリナイトの結晶分化度が上記の結晶化末期組織の有無に対応していることが示された。つまり、(c)の試料は、(a)、(b)より輝石が鉄に富み、マスケリナイトのCa量は乏しく、より多様な結晶化末期組織を持つものほど結晶分化が進んだことと対応する。分析試料はすべて化学的にEnrichedであったため、結晶化末期組織の有無と軽希土類元素組成などとの関係は不明であった。同様にカリ長石質ガラス組成やマスケリナイトの酸化還元状態も、結晶化末期組織の有無との間に明確な相関は見られなかった。(c)の2試料は同様の結晶化末期組織を持つ一方、輝石とマスケリナイトの形状や鉱物モードが異なる。これは、分析した試料が集積岩かどうかも関連していると考えられる。今後はその他の試料についてもそのような観点を考慮に入れて、さらにこれらの組織が結晶化と共に形成されたか、もしくは二次的に分解して形成されたかなど、総合的な検証が必要である。