講演情報
[R6-P-02]北部九州バソリス東部,白亜紀火成活動時の地殻融解:キンセイ石花崗岩からの証拠
*大和田 正明1、松井 陵記2、江島 圭祐1 (1. 山口大・院創成科学、2. (株)カミナガ)
キーワード:
北部九州バソリス、嘉穂花崗岩、キンセイ石花崗岩、高地温勾配、低圧高温型変成作用
沈み込み帯における火成活動は,大陸地殻の形成を促すと同時に,その組成的変遷は,地殻進化過程の解明に貢献できる。北部九州には,白亜紀に貫入した花崗岩類と少量の苦鉄質岩類を伴い,112-95 MaのジルコンU–Pb年代を示す北部九州バソリスが分布する。このバソリスは,貫入関係,岩相そしてジルコンU–Pb年代から,早期に活動した花崗閃緑岩類と後期に活動した花崗岩類に区分できる。花崗閃緑岩は角閃石を含み,メタアルミナ質組成を示すのに対し,花崗岩の多くは過アルミナ質組成で,しばしば白雲母やザクロ石を伴う。今回,我々はバソリス東部に分布する嘉穂花崗岩からキンセイ石(全てピナイト化している)を見出した。本報告は,キンセイ石含有花崗岩(Crd Gr)の記載的化学的特徴を明らかにし,Crd Grマグマの成因とその意義について議論する。
嘉穂花崗岩は,北部九州バソリス東部に3 x 3 kmの広がりをもつ。岩体の北東側でペルム紀付加体に貫入するが,西側は古第三紀と第四紀の堆積岩に覆われる。ペルム紀付加体との境界部の分布から,ラコリス状の貫入形態が示唆される。中粒〜粗粒,優白質・塊状の岩相で,稀に暗色包有物を伴い,細粒のアプライト岩脈に貫かれる。鏡下では,主に石英,斜長石,アルカリ長石から構成され,少量の黒雲母と白雲母を含む。また,岩体の全域でピナイト化したキンセイ石を伴う。石英は半自形〜他形,斜長石は自形性が強く,自形〜半自形のアルカリ長石に包有されることがある。黒雲母と白雲母は鉱物の粒間に多形として産することが多い。また,黒雲母は細粒の石英を包有する。ピナイト化したキンセイ石は自形〜半自形結晶として産する。そのほか,ジルコンや不透明鉱物などの副成分鉱物を少量含む。
嘉穂花崗岩体の全域から15試料を選定し,蛍光X線で全岩化学組成を分析した。SiO2含有量は,72–79 wt%と分化した組成を示す。トータルアルカリシリカ (TAS) 図では,非アルカリ岩系列に属する。SiO2含有量の増加に伴い,特にK2Oが増加,CaO, Fe2O3, Sr, Zrは減少し,一連のトレンドを示す。また,アルミナ飽和指数はすべての試料で1.1以上を示す。Sr-Ba図では,SiO2含有量の低い試料から主に斜長石が分別するトレンドを示す。また,ジルコン飽和温度計では,SiO2=72 wt%の試料が最も高温で,790 ˚Cの温度が見積もられた。以上から嘉穂花崗岩の組成変化は主に斜長石が分別することで再現できる。また,マグマの温度条件は約800 ˚Cであったと考えられる。組織から黒雲母の晶出が石英よりも遅れた可能性があり,マグマ中の含水量は比較的少なかったと推定される。
キンセイ石を含み,アルミナ質飽和指数が1.1を超えることから,嘉穂花崗岩は典型的なS-type花崗岩の特徴を示す。また,比較的H2Oに乏しい可能性があることから,嘉穂花崗岩マグマは,泥質岩に含まれる含水鉱物の脱水分解反応によって生じた可能性が高い。北部九州バソリス周辺,特に東部域の先白亜系地質構造区分によれば,この地域の地表地質は主にペルム紀付加体である。西南日本のパイルナップ構造を考慮すると,嘉穂花崗岩マグマの起源物質は,周防帯またはジュラ紀付加体(玖珂層群)と考えられる。したがって,嘉穂花崗岩はこのような泥質岩の部分溶融によって生じたメルトが集積・上昇することで形成したと推察される。このことは,北部九州バソリス地域の地下では,白亜紀に高い地温勾配を獲得し,低圧高温型変成作用によって中部地殻が部分溶融を起こす条件に達していたことを示唆する。
嘉穂花崗岩は,北部九州バソリス東部に3 x 3 kmの広がりをもつ。岩体の北東側でペルム紀付加体に貫入するが,西側は古第三紀と第四紀の堆積岩に覆われる。ペルム紀付加体との境界部の分布から,ラコリス状の貫入形態が示唆される。中粒〜粗粒,優白質・塊状の岩相で,稀に暗色包有物を伴い,細粒のアプライト岩脈に貫かれる。鏡下では,主に石英,斜長石,アルカリ長石から構成され,少量の黒雲母と白雲母を含む。また,岩体の全域でピナイト化したキンセイ石を伴う。石英は半自形〜他形,斜長石は自形性が強く,自形〜半自形のアルカリ長石に包有されることがある。黒雲母と白雲母は鉱物の粒間に多形として産することが多い。また,黒雲母は細粒の石英を包有する。ピナイト化したキンセイ石は自形〜半自形結晶として産する。そのほか,ジルコンや不透明鉱物などの副成分鉱物を少量含む。
嘉穂花崗岩体の全域から15試料を選定し,蛍光X線で全岩化学組成を分析した。SiO2含有量は,72–79 wt%と分化した組成を示す。トータルアルカリシリカ (TAS) 図では,非アルカリ岩系列に属する。SiO2含有量の増加に伴い,特にK2Oが増加,CaO, Fe2O3, Sr, Zrは減少し,一連のトレンドを示す。また,アルミナ飽和指数はすべての試料で1.1以上を示す。Sr-Ba図では,SiO2含有量の低い試料から主に斜長石が分別するトレンドを示す。また,ジルコン飽和温度計では,SiO2=72 wt%の試料が最も高温で,790 ˚Cの温度が見積もられた。以上から嘉穂花崗岩の組成変化は主に斜長石が分別することで再現できる。また,マグマの温度条件は約800 ˚Cであったと考えられる。組織から黒雲母の晶出が石英よりも遅れた可能性があり,マグマ中の含水量は比較的少なかったと推定される。
キンセイ石を含み,アルミナ質飽和指数が1.1を超えることから,嘉穂花崗岩は典型的なS-type花崗岩の特徴を示す。また,比較的H2Oに乏しい可能性があることから,嘉穂花崗岩マグマは,泥質岩に含まれる含水鉱物の脱水分解反応によって生じた可能性が高い。北部九州バソリス周辺,特に東部域の先白亜系地質構造区分によれば,この地域の地表地質は主にペルム紀付加体である。西南日本のパイルナップ構造を考慮すると,嘉穂花崗岩マグマの起源物質は,周防帯またはジュラ紀付加体(玖珂層群)と考えられる。したがって,嘉穂花崗岩はこのような泥質岩の部分溶融によって生じたメルトが集積・上昇することで形成したと推察される。このことは,北部九州バソリス地域の地下では,白亜紀に高い地温勾配を獲得し,低圧高温型変成作用によって中部地殻が部分溶融を起こす条件に達していたことを示唆する。