講演情報
[R7-01]硫化物チムニーの組織発達と熱電変換性能の関係:天然試料と水熱実験からの示唆
*戸田 賢太朗1、岡本 敦1、オトゴンバヤル ダンダル1、高橋 美咲1、井原 智則2、野崎 達生3 (1. 東北大・院環境、2. 東京海洋大、3. 早稲田大)
キーワード:
海底熱水噴出孔
本研究では、海底熱水噴出孔の硫化物チムニーによる熱-電力変換作用による発電ポテンシャルの解明を目指し、チムニー試料の電気特性測定と水熱反応実験を実施した。その結果、チムニーの成長に伴い組織の熱電変換性能は大きく向上し、さらに組織内部の空孔・鉱物の三次元分布が熱電変換において重要な役割を果たし得ることが明らかとなった。
熱水噴出孔は島弧や背弧域、リフト帯に分布し、噴出熱水と海水の急激な混合により硫化鉱物からなるチムニーを形成する。ここでは熱水-海水間の酸化還元電位差と硫化鉱物の導電性により深海底への電子供給が起きうることが報告されており(Yamamoto et al., 2018)、太陽光から独立した深海生態系への一次エネルギー供給源として考えられている。一方で、チムニーの内部構造を電子伝達経路として捉えた研究は存在せず、電子輸送メカニズムは未解明である。また硫化鉱物は半導体であり、温度勾配を起電力へ変換する熱電効果を示すことが知られているが、チムニーの熱電性能評価はこれまで行われていない。そこで本研究では、(1)伊豆・小笠原海域産のチムニー試料および(2)ZnS・FeS₂単体と、それらの複合組織であるチムニー試料を出発物とした水熱実験生成物について電気特性を測定し、これによりチムニーの成長と発電現象の関係性を検討した。
天然試料の解析から、伊豆・小笠原海域産チムニーは(i)多孔質な重晶石(BaSO4)と閃亜鉛鉱(ZnS)で構成される試料、(ii)閃亜鉛鉱と球状の黄鉄鉱(FeS2)からなる試料、(iii)閃亜鉛鉱・黄鉄鉱からなり空隙周辺が方鉛鉱(PbS)・黄銅鉱(CuFeS2)で置換された試料の三種に大別されることが分かった。それぞれがチムニー成長段階の初期・中期・後期に対応している。表面の導電性σ [S cm-1]は(i)(ii)がそれぞれ10-12オーダーであるのに対して、(iii)の方鉛鉱部分は100オーダーであった。各試料について単位温度差あたりに生じる熱起電力の大きさであるゼーベック係数S [mV K-1]、および熱電変換性能の指標であるパワーファクターS2 σ [mV2 K-1 S cm-1]を算出した。その結果、(i)(ii)に比べて(iii)はS2 s が106オーダーほど大きく、累帯構造の発達による構成鉱物の変遷が発電現象を開始させている可能性が見出された。
模擬熱水と硫化鉱物の水熱反応実験から、パワーファクターの高い鉱物の析出メカニズムを検討した。実験は200―300℃の飽和蒸気圧下で実施し、反応時間を12日間とした。溶液にはCuClおよびFeCl2・4H2Oをそれぞれ0.3M添加し、HClを滴定してpHを3.0に調整した。また一部の条件では還元剤としてチオ硫酸ナトリウム(1.1M)を添加した。黄鉄鉱(FeS2)を出発物とした条件では、反応により結晶に亀裂が生じ、Cu2-xSの被膜が出発物表面に形成された。一方、亀裂内部にはCuFeS2が析出し、この変化はFe2+およびCu2+の化学ポテンシャル勾配に起因すると考えられる。閃亜鉛鉱(ZnS)を出発物とした場合、出発物表面にCu2-xSの被膜が形成された。還元剤を添加した条件では、Cu2-xSに加えてCuFeS2が形成された。表面被膜についてS2 s [mV2 K-1 S cm-1] を評価すると、閃亜鉛鉱からCu2-xSおよびCuFeS2への置換によりS2 s は最大106オーダーで増加した。
実験生成物と天然試料の三次元構造をX線CTにより解析した。実験生成物では、閃亜鉛鉱からなる多孔質なチムニー試料の空孔周囲にCu₂₋ₓSおよびCuFeS₂が析出し、網目状の組織が形成された。天然試料においても、多孔質な閃亜鉛鉱組織が黄銅鉱に置換された発達段階(iii)に相当する試料で、同様の構造が確認された。天然試料の同一面内での導電性の不均一性を、二端子法により一方の電極を固定し、他方を断面内の複数箇所に配置することで評価した。その結果、最大で10³オーダーの導電性のばらつきが認められたことから、チムニー内部における鉱物間の連結性が構造全体の導電性を支配しうることが示唆された。
チムニーは形成初期には導電性の低い組織から構成され、硫化鉱物の沈殿が進むと高導電性のCu2-xSやCuFeS2などの緻密な層が低導電性の硫化鉱物上に形成される。その結果、チムニー壁内にパワーファクターS2 s の高い組織が網目状に形成される。この構造は電子輸送の橋渡しとして機能し、さらに熱電効果によりチムニー壁内の温度勾配を熱起電力へと変換して酸化還元電位差に匹敵する電圧を発生させうる。以上から、チムニー内部構造の変化が海底での熱-電力変換現象を発現させうることが明らかとなった。
熱水噴出孔は島弧や背弧域、リフト帯に分布し、噴出熱水と海水の急激な混合により硫化鉱物からなるチムニーを形成する。ここでは熱水-海水間の酸化還元電位差と硫化鉱物の導電性により深海底への電子供給が起きうることが報告されており(Yamamoto et al., 2018)、太陽光から独立した深海生態系への一次エネルギー供給源として考えられている。一方で、チムニーの内部構造を電子伝達経路として捉えた研究は存在せず、電子輸送メカニズムは未解明である。また硫化鉱物は半導体であり、温度勾配を起電力へ変換する熱電効果を示すことが知られているが、チムニーの熱電性能評価はこれまで行われていない。そこで本研究では、(1)伊豆・小笠原海域産のチムニー試料および(2)ZnS・FeS₂単体と、それらの複合組織であるチムニー試料を出発物とした水熱実験生成物について電気特性を測定し、これによりチムニーの成長と発電現象の関係性を検討した。
天然試料の解析から、伊豆・小笠原海域産チムニーは(i)多孔質な重晶石(BaSO4)と閃亜鉛鉱(ZnS)で構成される試料、(ii)閃亜鉛鉱と球状の黄鉄鉱(FeS2)からなる試料、(iii)閃亜鉛鉱・黄鉄鉱からなり空隙周辺が方鉛鉱(PbS)・黄銅鉱(CuFeS2)で置換された試料の三種に大別されることが分かった。それぞれがチムニー成長段階の初期・中期・後期に対応している。表面の導電性σ [S cm-1]は(i)(ii)がそれぞれ10-12オーダーであるのに対して、(iii)の方鉛鉱部分は100オーダーであった。各試料について単位温度差あたりに生じる熱起電力の大きさであるゼーベック係数S [mV K-1]、および熱電変換性能の指標であるパワーファクターS2 σ [mV2 K-1 S cm-1]を算出した。その結果、(i)(ii)に比べて(iii)はS2 s が106オーダーほど大きく、累帯構造の発達による構成鉱物の変遷が発電現象を開始させている可能性が見出された。
模擬熱水と硫化鉱物の水熱反応実験から、パワーファクターの高い鉱物の析出メカニズムを検討した。実験は200―300℃の飽和蒸気圧下で実施し、反応時間を12日間とした。溶液にはCuClおよびFeCl2・4H2Oをそれぞれ0.3M添加し、HClを滴定してpHを3.0に調整した。また一部の条件では還元剤としてチオ硫酸ナトリウム(1.1M)を添加した。黄鉄鉱(FeS2)を出発物とした条件では、反応により結晶に亀裂が生じ、Cu2-xSの被膜が出発物表面に形成された。一方、亀裂内部にはCuFeS2が析出し、この変化はFe2+およびCu2+の化学ポテンシャル勾配に起因すると考えられる。閃亜鉛鉱(ZnS)を出発物とした場合、出発物表面にCu2-xSの被膜が形成された。還元剤を添加した条件では、Cu2-xSに加えてCuFeS2が形成された。表面被膜についてS2 s [mV2 K-1 S cm-1] を評価すると、閃亜鉛鉱からCu2-xSおよびCuFeS2への置換によりS2 s は最大106オーダーで増加した。
実験生成物と天然試料の三次元構造をX線CTにより解析した。実験生成物では、閃亜鉛鉱からなる多孔質なチムニー試料の空孔周囲にCu₂₋ₓSおよびCuFeS₂が析出し、網目状の組織が形成された。天然試料においても、多孔質な閃亜鉛鉱組織が黄銅鉱に置換された発達段階(iii)に相当する試料で、同様の構造が確認された。天然試料の同一面内での導電性の不均一性を、二端子法により一方の電極を固定し、他方を断面内の複数箇所に配置することで評価した。その結果、最大で10³オーダーの導電性のばらつきが認められたことから、チムニー内部における鉱物間の連結性が構造全体の導電性を支配しうることが示唆された。
チムニーは形成初期には導電性の低い組織から構成され、硫化鉱物の沈殿が進むと高導電性のCu2-xSやCuFeS2などの緻密な層が低導電性の硫化鉱物上に形成される。その結果、チムニー壁内にパワーファクターS2 s の高い組織が網目状に形成される。この構造は電子輸送の橋渡しとして機能し、さらに熱電効果によりチムニー壁内の温度勾配を熱起電力へと変換して酸化還元電位差に匹敵する電圧を発生させうる。以上から、チムニー内部構造の変化が海底での熱-電力変換現象を発現させうることが明らかとなった。