講演情報

[R7-07]イタリア、ティレニア背弧海盆で掘削されたかんらん岩の岩石学的特徴と形成過程

*寺田 桜弥子1、秋澤 紀克1、森下 知晃2、芳川 雅子1、柴田 知之1、田村 明弘2、IODP Exp. 402 乗船研究者の皆様 (1. 広島大学・院地惑、2. 金沢大学・院理地)
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キーワード:

国際深海科学掘削計画第402次研究航海、ティレニア海、背弧海盆、かんらん岩、メルト-マントル相互作用

島弧システムでは海洋プレートの沈み込みに伴い背弧側が伸長する。これにより、背弧海盆の形成・拡大が起こることがある。島弧の火山フロントから背弧にかけたマグマ活動はこれまで多く研究されてきた。一方、背弧海盆の形成・進化については、アクセスの困難さから試料採取が難しく、特に深部マグマ活動について未解明な部分が多い。島弧システムを広く理解するうえで背弧海盆の理解は重要であり、背弧海盆由来のマントル物質は深部での初生的なマグマ活動の情報を抽出することができる有用な物質である。 2024年2月〜4月にイタリアのティレニア海で国際深海科学掘削計画第402次研究航海(IODP Exp. 402)が行われ、U1614、U1616の掘削サイトでティレニア背弧海盆から、かんらん岩を含むコア試料が回収された。南ティレニア背弧海盆での地球物理的探査からは、海洋コアコンプレックス(OCC)の特徴である、低角度のデタッチメント断層とみられる、地震波不連続面が観測されており[1]海底にマントル物質が露出していると推察されている[2]。過去のODP Leg 107掘削でも同様にかんらん岩試料が回収されたが[3]、変質の影響が大きく、得られたかんらん岩の初生的な情報には限りがあった。本研究では、南ティレニア背弧海盆U1616E掘削孔で回収されたかんらん岩30試料について、偏光顕微鏡による岩石記載、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)での鉱物判定・主要元素組成測定、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)による単斜輝石・直方輝石・斜長石の微量元素組成の測定を行い、岩石学的・地球化学的な特徴を明らかにすることを目標とする。 試料は蛇紋岩化作用によって変質しているが、残存する初生鉱物の記載岩石学的特徴から、掘削孔上部と掘削孔下部に区別した。掘削孔上部のかんらん岩はカンラン石・直方輝石・単斜輝石と褐色~暗褐色のスピネルを含むハルツバージャイト的で、掘削孔下部のかんらん岩はカンラン石・直方輝石・単斜輝石と黒色で不透明な比較的細粒なスピネルと変質した斜長石を含むハルツバージャイト・レルゾライト的であった。ただし、掘削孔下部のかんらん岩は、鉱物組成にばらつきがみられ、均質なレルゾライト的部分と、ハルツバージャイトに一部レルゾライトがみられる不均質部分も存在する。また薄片観察から、ダナイト脈やダナイト的な枯渇したモード組成を示す部分が掘削孔上部・下部ともに観察された。 鉱物の主要元素組成は、岩石記載と調和的な、掘削孔上部と掘削孔下部で異なる特徴を示した。カンラン石のFo値(=Mg/(Mg+Fe)原子比)は、掘削孔下部の方が掘削孔上部に比べてやや高い。スピネルのCr#(=Cr/(Cr+Al)原子比)は、掘削孔上部・下部ともに高く(>0.4 wt.%)、部分溶融度が高くメルト成分に枯渇した傾向を示す。掘削孔下部では、スピネルのTiO2含有量が非常に高く(TiO2 wt.%= ~1.9 wt.%)、組成のばらつきがみられる。これらは、海洋域の斜長石かんらん岩領域付近にプロットされ、メルト成分に富むことが示唆される。掘削孔下部でみられる単斜輝石についても、高いTiO2含有量(TiO2 wt.%= ~1.1 wt.%)と組成のばらつきといった、スピネルと類似したメルト成分に富むと考えられる主要元素の特徴を確認した。 単斜輝石・直方輝石の微量元素組成は、左上がりの軽希土類元素に富んだコンドライト規格化パターンを示すもの、軽希土類元素に乏しい左下がりのパターンを示すもの、やや左下がりではあるがフラットなパターンを示すものの3つの傾向を示した。これらは、それぞれ掘削孔上部、掘削孔下部、局所的にモード交代作用(鉱物モード組成の改変)を受けた試料についての特徴を表している。 これらの記載岩石学的・鉱物化学的特徴より、U1616E掘削孔上部のかんらん岩はメルト成分に枯渇しており、ダナイト脈やダナイト的な部分を含んでいることから、溶融の進行とともに比較的深部の初生的なメルトの侵入を被り反応することによって形成されたことが示唆される。一方で、掘削孔下部の斜長石を含むかんらん岩は斜長石に飽和した玄武岩質メルトとの反応によって形成されたと考えられる。一部の試料については、上記とは異なるメルトとの反応が考えられ、U1616E掘削孔で回収されたかんらん岩は複数のメルトとの反応の結果、形成されたと考えられる。 引用文献:[1] Sartori et al., 2004[2] Prada et al., 2015[3] Bonatti et al., 1990