講演情報

[R7-09]南部フォッサマグナ地域未分化玄武岩の透輝石巨晶に含まれる花崗岩質メルト包有物

*天谷 宇志1 (1. 産総研・地質調査総合センター)
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キーワード:

花崗岩質メルト包有物、透輝石巨晶、未分化玄武岩、熱水性金属鉱床

島弧の熱水性金属鉱床の多くは,花崗岩質マグマ起源の熱水流体により形成されるため,その熱水の特性を左右する花崗岩質マグマの初生的な化学的特徴の解明が,鉱床形成過程の検討に重要である.しかし,地表に露出する花崗岩体の多くは,結晶分化や熱水分離等により元々の化学的特徴を失っている可能性が高く,地表花崗岩から鉱床形成に関係する初生的な情報が得にくいという課題があった.そこで,未分化な玄武岩質マグマであれば,その上昇過程において地下深部の初生的な花崗岩マグマを斑晶中にメルト包有物として捕獲する可能性があると考え,探索してきた.
 南部フォッサマグナ地域には,糸魚川-静岡構造線や伊豆-小笠原弧の衝突境界に沿って,透輝石巨晶を多量に含む未分化な玄武岩が特徴的に産出する.現在のところ,山梨県佐野川流域に分布する新第三紀に貫入した未分化な玄武岩岩脈中のクロム透輝石巨晶に,また神奈川県丹沢地域に分布する伊豆-小笠原弧衝突開始時期の海底噴出玄武岩中の透輝石巨晶に,初生的な花崗岩質メルトと推定されるメルト包有物が存在することを見出し,報告してきた(Amagai & Kurosawa, 2023; 天谷・黒澤2024, 2025 資源地質学会要旨).これらの発見は,南部フォッサマグナ地域に分布する花崗岩体がどのような金属鉱床を形成しうるかを花崗岩質マグマの初生的な化学的特徴から検討することを可能とする.今回は,2地域の花崗岩質メルト包有物を内包する透輝石巨晶とその母岩の特徴,メルト包有物の鉱物組み合わせと平均化学組成及び周辺の花崗岩体と鉱脈型金属鉱床との関係について概説する.佐野川流域に分布する玄武岩脈には,数㎝のクロム透輝石巨晶が多量に含まれ,岩脈の全岩組成や透輝石含有量は,未分化な島弧火山岩の1つである島弧型アンカラマイト(例えば,Barsdell & Berry, 1990)に相当していた.透輝石内部には,ほぼ完全に結晶化した花崗岩質メルト包有物が含まれ,主に石英・斜長石・カリ長石・角閃石の析出結晶からなり,少量の黄鉄鉱や黄銅鉱等の析出硫化物を伴う.硫化物には,少量のNi, Zn, Cd, Pb等の微細な硫化物が付着し,金銀化合物や白金鉱物も確認された.また,透輝石中には緑泥石・方解石を主とする別の包有物も存在したが,液体の水を含む包有物は確認されなかった.丹沢地域に分布する玄武岩類は,海底噴出溶岩や岩脈状を呈し,透輝石-普通輝石巨晶が大量に含まれていた.これらの全岩組成は,佐野川地域の島弧アンカラマイトよりも分化しているが,伊豆-小笠原弧の衝突開始時期に噴出したMgに富む玄武岩類(Kawate, 1997)と合致した.透輝石巨晶と普通輝石巨晶に含まれる花崗岩質メルト包有物は,それぞれ負結晶形で部分的に結晶化した微結晶型と,楕円形でほぼガラスからなるガラス型に分類される.微結晶型は透輝石巨晶に含まれ,Si, K, Na 等に富むガラスからなり,磁鉄鉱や角閃石の析出結晶を随伴し,黄銅鉱と黄鉄鉱も時々含んでいた.ガラス型は普通輝石巨晶に含まれ,ほぼ均質で気泡を含み,磁鉄鉱・角閃石の他に鉄硫化物を稀に伴っていた.花崗岩質メルト包有物の捕獲深度は,輝石巨晶の形成温度圧力(Wang et al., 2021)で推定され,透輝石コア部分でいずれも約7~12 kbと南部フォッサマグナ地域の花崗岩質マグマの発生深度(例えば,Nakajima & Arima, 1998)に近い.平均化学組成は,SEM-EDSの二次元元素マッピングによる各析出結晶の面積比と化学組成,既知の鉱物密度に基づき推定された.その結果,佐野川地域の透輝石巨晶中の花崗岩質メルト包有物は,メタアルミナスでカルクアルカリ質の花崗閃緑岩の組成に相当し,南部フォッサマグナ地域の中程度のK2Oを含む新第三紀花崗岩の主成分組成と一致していた.丹沢地域のものは,日本を代表するMタイプ花崗岩である丹沢トーナル岩の親マグマの推定組成に類似していた.含水鉱物の量比に基づくと,含水量は最大1.2 wt %と少なかった.鉱床の形成に重要な金属・硫黄量も推定され,それらの濃度は日本の大規模な金属鉱床を伴う花崗岩と同等かそれ以上の濃度であり,大陸地域の斑岩銅鉱床と比較しても遜色ない.但し,この花崗岩質マグマが鉱床を形成したとしても,含水量が低いために発生する熱水の量が少ないことが推定され,小規模な金属鉱床しか形成されない可能性がある.さらに,メルト包有物に硫化物として含まれる金属の種類と相対的な量比は,付近に分布する新第三紀花崗岩に関連した鉱脈型鉱床から産出する金属硫化物の種類や相対的な産出量の傾向と調和的であった.このことは,未分化な玄武岩に捕獲された初生的花崗岩質メルトの化学的特徴が,周囲の鉱床の化学的特徴の検討に手がかりを与える可能性があることを示唆している.