講演情報
[R7-P-08]オマーンオフィオライトのメタモルフィック・ソールおよびその近傍にみられる岩石・鉱物種の記載と流体包有物の分析
*田中 冬馬1、川本 竜彦1、和仁 拓望2、市山 祐司2、谷内 元4、高澤 栄一3、三木 悠登3 (1. 静岡大・理、2. 千葉大・理、3. 新潟大・理、4. 産総研)
キーワード:
オマーンオフィオライト、メタモルフィック・ソール、炭酸塩化、透輝石岩、流体包有物
オマーンオフィオライト(Oman Ophiolite, أفيوليت عمان)は,アラブ首長国連邦およびオマーン国東岸に位置する海洋底層序であり,白亜紀後期の96.4-95.5 Maに形成されたと考えられている(Rioux et al., 2012).全長400 kmに及ぶ世界最大のオフィオライトとして知られ,高速拡大環境で形成されたとされる(Nicolas, 1989).蛇紋岩化したオマーンオフィオライトの橄欖岩に見られる炭酸塩脈の温度圧力条件や構成成分の分析は,沈み込み帯や衝上の過程における岩石と流体の振る舞いを知るうえで非常に重要な指標となる(e.g.; Noël et al., 2018).また,オマーンオフィオライトでは,最下層マントル橄欖岩の下に張り付いた変成岩体であるメタモルフィック・ソールの露頭や,高温熱水によるとされる透輝石岩の脈,海洋島玄武岩(OIB)に由来するとされる単斜輝岩など,海洋リソスフェアの進化を知るうえで重要な岩石も多く産出している(e.g.; Akizawa et al., 2016; Python et al., 2007; Ishimaru et al., 2017).
本調査では,2024年2月19日から24日にかけて,オマーン国内のソールとマントルの境界露頭など30地点において48点の試料を採取した.
偏光顕微鏡による微細構造観察,ラマン分光分析及びマイクロXRF分析による構成鉱物の同定並びに主要元素組成の分析を行った.また,現在マイクロサーモメトリと呼ばれる手法で構成鉱物内の流体包有物の分析を行っている.この手法では加熱冷却ステージを使用し,流体包有物を顕微鏡で観察しながら冷却して氷結させ,氷の最終融解温度を測定することで,流体包有物の塩濃度を推定する.また,流体包有物を加熱して液相・気相を均質化させ,その温度を測定することでホスト鉱物の形成温度圧力条件の推定の手掛かりとする.
メタモルフィック・ソールは沈み込んだ海洋プレートの最上位層が沈み込まれる側のマントルと接触変成したものと考えられており,ソールを構成する岩石は,沈み込んだ海洋プレートの苦鉄質岩を原岩とする角閃岩,泥質岩を原岩とする泥質片岩,珪質岩を原岩とするメタチャートなどが確認された.またメタモルフィック・ソールに接するマントル橄欖岩はその大部分が蛇紋岩化しており,主成分はクリソタイルであった.両者とも脈としてカルサイトやドロマイトなどの炭酸塩が確認されたが,その数はマントル橄欖岩側の方が多かった.マイクロXRF分析の結果,ドロマイトの一部は通常よりCaに富んだ組成をしている.また,マントルとソールの境界にはカルサイト,トムソナイト(Na(Ca, Sr)2Al5Si5O20・6H2O),ペクトライト(NaCa2Si3O8(OH))等からなる脈も見られた.
透輝石岩は,Python et al. (2007)で言及されているハルツバージャイト中の脈と,本調査で調査を行ったマントルウェッジと考えられるダナイト中の脈の2種類を採取し,比較を行った.マイクロサーモメトリの結果,ダナイト中の透輝石脈は平均3.6±0.7wt.%NaCl当量と海水と同程度か少し高い塩濃度の水性流体によって形成されたと考えられる。一方、ハルツバージャイト中のそれは平均7.9±0.5wt.%NaCl当量とより高い塩濃度の流体である.また,ダナイト中の透輝石岩の流体包有物の均質化温度は平均370±25℃の値を示したが,ハルツバージャイト中のそれは加熱冷却装置の最高温度である578℃(補正前値は600℃)を超える値を示した.よって,ハルツバージャイト中の透輝石岩に関わった流体は,ダナイトよりも高温かつ高塩濃度であったと結論付けられる.
また,マントルウェッジのダナイトに貫入した透輝石岩付近に見られた斑糲岩ダイク中のカルサイト脈にも着目し,測定を行ったが,塩濃度は0.3-0.5%NaClと極めて低い一方,均質化温度は150-400℃と高温であった.
本研究では,マントルとソールの境界付近の透輝石および炭酸塩鉱物形成流体の塩濃度・均質化温度の条件についての測定を行い,ハルツバージャイト中・ダナイト中の透輝石岩の形成条件の相違点をはじめとするソール近傍の岩石・水相互作用についての理解を深めた.今後の展望として,本研究で試料を採取したより多くの地点の炭酸塩脈や石英脈についても同様の観察を行い,本フィールドにおける温度圧力条件についての理解をしていく.
本調査では,2024年2月19日から24日にかけて,オマーン国内のソールとマントルの境界露頭など30地点において48点の試料を採取した.
偏光顕微鏡による微細構造観察,ラマン分光分析及びマイクロXRF分析による構成鉱物の同定並びに主要元素組成の分析を行った.また,現在マイクロサーモメトリと呼ばれる手法で構成鉱物内の流体包有物の分析を行っている.この手法では加熱冷却ステージを使用し,流体包有物を顕微鏡で観察しながら冷却して氷結させ,氷の最終融解温度を測定することで,流体包有物の塩濃度を推定する.また,流体包有物を加熱して液相・気相を均質化させ,その温度を測定することでホスト鉱物の形成温度圧力条件の推定の手掛かりとする.
メタモルフィック・ソールは沈み込んだ海洋プレートの最上位層が沈み込まれる側のマントルと接触変成したものと考えられており,ソールを構成する岩石は,沈み込んだ海洋プレートの苦鉄質岩を原岩とする角閃岩,泥質岩を原岩とする泥質片岩,珪質岩を原岩とするメタチャートなどが確認された.またメタモルフィック・ソールに接するマントル橄欖岩はその大部分が蛇紋岩化しており,主成分はクリソタイルであった.両者とも脈としてカルサイトやドロマイトなどの炭酸塩が確認されたが,その数はマントル橄欖岩側の方が多かった.マイクロXRF分析の結果,ドロマイトの一部は通常よりCaに富んだ組成をしている.また,マントルとソールの境界にはカルサイト,トムソナイト(Na(Ca, Sr)2Al5Si5O20・6H2O),ペクトライト(NaCa2Si3O8(OH))等からなる脈も見られた.
透輝石岩は,Python et al. (2007)で言及されているハルツバージャイト中の脈と,本調査で調査を行ったマントルウェッジと考えられるダナイト中の脈の2種類を採取し,比較を行った.マイクロサーモメトリの結果,ダナイト中の透輝石脈は平均3.6±0.7wt.%NaCl当量と海水と同程度か少し高い塩濃度の水性流体によって形成されたと考えられる。一方、ハルツバージャイト中のそれは平均7.9±0.5wt.%NaCl当量とより高い塩濃度の流体である.また,ダナイト中の透輝石岩の流体包有物の均質化温度は平均370±25℃の値を示したが,ハルツバージャイト中のそれは加熱冷却装置の最高温度である578℃(補正前値は600℃)を超える値を示した.よって,ハルツバージャイト中の透輝石岩に関わった流体は,ダナイトよりも高温かつ高塩濃度であったと結論付けられる.
また,マントルウェッジのダナイトに貫入した透輝石岩付近に見られた斑糲岩ダイク中のカルサイト脈にも着目し,測定を行ったが,塩濃度は0.3-0.5%NaClと極めて低い一方,均質化温度は150-400℃と高温であった.
本研究では,マントルとソールの境界付近の透輝石および炭酸塩鉱物形成流体の塩濃度・均質化温度の条件についての測定を行い,ハルツバージャイト中・ダナイト中の透輝石岩の形成条件の相違点をはじめとするソール近傍の岩石・水相互作用についての理解を深めた.今後の展望として,本研究で試料を採取したより多くの地点の炭酸塩脈や石英脈についても同様の観察を行い,本フィールドにおける温度圧力条件についての理解をしていく.