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[R8-03]岡山県美咲地域の周防変成岩および舞鶴帯の変成-変形履歴

*榎戸 綜1、遠藤 俊祐1 (1. 島根大・院自然)
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舞鶴帯

【はじめに】
西南日本内帯の舞鶴帯(Maizuru Terrane)は,古生代花崗岩を主とする大陸断片,ペルム紀の背弧海盆堆積物と海洋性島弧(夜久野オフィオライト)などからなる地質体である(例えばKimura et al., 2021).周辺の地質体とは主に高角断層で接しているが,岡山県久米地域ではトリアス紀の沈み込み帯で形成された低温高圧型変成帯である周防変成岩の構造的上位に舞鶴帯の低角ナップが存在する(Harada et al., 2024).したがって,久米地域は舞鶴帯と周防変成岩の初生的構造関係を保持する重要地域と考えられる.本研究では,両者の接合テクトニクスを検討するため,久米地域西部(以下,美咲地域)の友清川から美作追分にかけての南北ルートの調査を行った.

【周防変成岩の変成変形履歴】
美咲地域の苦鉄質片岩の鉱物組合せは,パンペリー石アクチノ閃石相,緑色片岩相,青色片岩相が混在するが,その分布に規則性は見出せなかった.これらは温度圧力の違いより,変成条件がこの三つの変成相の遷移帯(0.5 GPa,300℃程度)にあり,わずかな全岩化学組成の違いを反映していると考えられる.
青色片岩には初期の片理S1とその等斜状褶曲F2の軸面と平行に発達する片理S2が認められ,それぞれの片理を形成した延性変形段階をD1,D2とする.調査地域の結晶片岩に広く観察される主片理はS2であると判断される.青色片岩の角閃石はコアからリムに向かってアクチノ閃石⇒ウィンチ閃石⇒Na角閃石という累帯構造をもつ.Na角閃石はAlに乏しいマグネシオリーベック閃石であり,変成圧力が青色片岩相の低圧限界付近であることを支持する.また,S1に沿って配列する角閃石は主にアクチノ閃石~ウィンチ閃石であるのに対し,S2に沿って配列する角閃石はNa角閃石のリムが良く発達する.このことからD1は圧力上昇期,すなわち沈み込み時の変形であり,D2はピーク圧力に近い時期の延性変形に関係づけられた.D2に対応すると考えられる剪断センスは挟在する石灰質片岩のクリノイドの非対称プレッシャーシャドウから上盤北ずれと判定され,北傾斜の沈み込み帯を考えた場合,これは見かけ正断層運動である.従ってD2は,ピーク圧力から上昇開始に転じる変形と考えられる.

【舞鶴帯の構成岩類と舞鶴ナップの運動像】
美咲地域では,泥質スレート,緑色岩,花崗岩マイロナイトからなる低角ナップが周防変2 / 2成岩の構造的上位に位置することを再確認するとともに,新たにナップの北縁から剪断を受けた蛇紋岩の露頭を発見した.蛇紋岩はメッシュ構造をもつ蛇紋石と磁鉄鉱化したクロムスピネルにより構成される.蛇紋岩は緑色岩を伴っており,これらは夜久野オフィオライトの構成岩類と考えられる.蛇紋岩の露頭でみられたBlock-in-matrix構造の複合面構造や磁鉄鉱化したクロムスピネル粒子の非対称プレッシャーシャドウから剪断センスはTop-to-SWと判定された.花崗岩マイロナイト(プロトマイロナイト~ウルトラマイロナイト)のマイロナイト化の時期は不明であるが,長石ポーフィロクラストの非対称構造から剪断センスはTop-to-Sであると判断した(ただし,花崗岩マイロナイトの剪断センスは観察数が少ない).両者ともにおおむね上盤南ずれの運動であるため,舞鶴帯のナップは相対的に北から南に向かって周防変成岩に衝上したと考えられる.
花崗岩マイロナイトが形成されるには,石英が結晶塑性変形する300℃以上の条件下(通常の地温勾配であれば地下15 km前後)である必要がある.一方,周防変成岩の苦鉄質片岩から観察されたパンペリー石は360℃以下で安定であることから,花崗岩マイロナイトの形成条件と本地域の周防変成岩のピーク変成温度は類似する.花崗岩類のマイロナイト化の時期が周防変成岩との接合と同時期であるならば,構造侵食により上盤プレートを構成していた舞鶴層群が周防変成岩と接触したというモデルが考えられる.

引用文献:
Kimura et al. (2021) EPSL, 565, 116926.
Harada et al. (2024) JMPS, 119, 1-8.

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