講演情報
[R8-04]ジュラ紀周防変成岩中のアンチゴライト蛇紋岩の変成・変形履歴
*遠藤 俊祐1 (1. 島根大学)
キーワード:
蛇紋岩
加水した前弧マントルを構成するアンチゴライト(Atg)蛇紋岩の変形特性は,深部スロー地震との関係から盛んに研究されている.白亜紀沈み込み境界で形成された三波川変成帯中のAtg蛇紋岩の研究では,剪断強度の低いブルーサイト(Brc)の存在がAtg蛇紋岩の歪み集中を起こす可能性(Kawahara et al., 2016)や流体圧変動に伴うBlock-in-matrix構造およびAtg塑性変形による延性剪断帯の形成モデル(Hirauchi et al., 2021)が提案されている.鳥取県日南町には,前期ジュラ紀の周防変成岩の最高変成度部(三波川変成帯のアルバイト黒雲母帯と同程度)が露出しており,同地域のマッピングによりシート状の大規模なAtg蛇紋岩が泥質片岩中に取り込まれていることを明らかにした.このAtg蛇紋岩および周囲に産する交代岩を対象に,それらの変形組織の観察と,苦鉄質・泥質変成岩から得られている変成・変形履歴との関連付けを行った.
日南地域の苦鉄質・泥質片岩の変成履歴は,青色片岩相のピーク圧力(M1: ~ 450℃,>1.2 GPa)の後,緑れん石角閃岩相(M2: ~ 520℃,0.8 GPa)の強いオーバープリントを受けている.さらに緑色片岩相の後退変成作用(M3)を部分的に受けている.延性変形はM1からM2に至る初期上昇(D1)と,M2からM3に至る後期上昇(D2)の二段階が認識でき,広く発達する主片理はD2に関係づけられる(Eto and Endo, 2020).D2変形の剪断センスはTop-to-WとTop-to-Eの領域が混在している.
Atg蛇紋岩の原岩はダナイト,ハルツバージャイト,および少量の単斜輝岩と推定される.原岩の鉱物はクロムスピネルが一部残存しており,その高いCr#(0.53–0.72)や低いTiO2量(<0.2 wt%)から枯渇した前弧マントル起源と考えられる.変成鉱物組合せはAtg + 磁鉄鉱 ± かんらん石(Ol) ± チタン単斜ヒューム石 ± 透輝石(Di)で,変成Ol(Mg# = 0.91–0.99)はBrc脱水反応(Brc + Atg = Ol + H2O)により形成されたと考えられる.Brc脱水反応以上かつ,Ol + Diの組み合わせが安定であることは,周囲の泥質片岩のM1~M2の温度条件と調和的である.Atg蛇紋岩の周辺には交代岩として,透輝石-緑泥石岩,アクチノ閃石-タルク岩などが認められる.
Atg蛇紋岩は,Block-in-matrix構造やそれに重複するanastomosing面構造が発達する.Block-in-matrix構造は,細粒Atg集合体からなるブロックと,粗粒な板状Atgのinterpenetrating組織およびそれを包む変成Olからなる基質で構成され,Hirauchi et al. (2021)の示した組織と変成Olの有無を除けば同様である.ブロックのべき乗サイズ分布のフラクタル次元も三波川変成帯のものと類似する.基質にのみ変成Olと粗粒かつランダムなAtgが存在することから,Block-in-matrix構造はBrc脱水反応に伴う単発の水圧破砕によるものと考えられる.External fluidによる周期的な流体圧上昇(Hirauchi et al., 2021)による破砕構造もあるかもしれないが,現時点では識別できていない.また,面構造の発達するAtg蛇紋岩では,微小なBrc脈が剪断面を形成していることがBSE像観察で認識でき,Atg蛇紋岩の延性変形において極少量のBrcの存在が重要であること(Kawahara et al., 2016)を支持する.Brcは流体の溶存シリカと反応して容易に失われるため,Atgのみからなる剪断帯であってもその形成時にBrcが存在した可能性を考慮する必要があるかもしれない.蛇紋岩の変形構造の重複関係と鉱物組合せの安定性から,最終的なBrc剪断面の形成を伴う変形(Top-to-Wの剪断センスが支配的)は後退的にBrcが生じていることからD2に関係づけられ,Block-in-matrix構造の形成や泥質片岩に取り込まれたのはそれ以前である.Atg蛇紋岩が脆性~準延性変形を示すのに対し,交代岩の緑泥石岩は常に片理と微細褶曲の発達した延性変形を示している.多くの研究で指摘されているように,Atg蛇紋岩は交代作用により緑泥石またはタルクが形成されると,沈み込み境界のレオロジー変化に大きく影響するであろう.
文献:
Eto and Endo (2020) JMPS, 115, 416-427.
Kawahara et al. (2016) Lithos, 254, 53-66.
Hirauchi et al. (2021) EPSL, 576, 117232.
日南地域の苦鉄質・泥質片岩の変成履歴は,青色片岩相のピーク圧力(M1: ~ 450℃,>1.2 GPa)の後,緑れん石角閃岩相(M2: ~ 520℃,0.8 GPa)の強いオーバープリントを受けている.さらに緑色片岩相の後退変成作用(M3)を部分的に受けている.延性変形はM1からM2に至る初期上昇(D1)と,M2からM3に至る後期上昇(D2)の二段階が認識でき,広く発達する主片理はD2に関係づけられる(Eto and Endo, 2020).D2変形の剪断センスはTop-to-WとTop-to-Eの領域が混在している.
Atg蛇紋岩の原岩はダナイト,ハルツバージャイト,および少量の単斜輝岩と推定される.原岩の鉱物はクロムスピネルが一部残存しており,その高いCr#(0.53–0.72)や低いTiO2量(<0.2 wt%)から枯渇した前弧マントル起源と考えられる.変成鉱物組合せはAtg + 磁鉄鉱 ± かんらん石(Ol) ± チタン単斜ヒューム石 ± 透輝石(Di)で,変成Ol(Mg# = 0.91–0.99)はBrc脱水反応(Brc + Atg = Ol + H2O)により形成されたと考えられる.Brc脱水反応以上かつ,Ol + Diの組み合わせが安定であることは,周囲の泥質片岩のM1~M2の温度条件と調和的である.Atg蛇紋岩の周辺には交代岩として,透輝石-緑泥石岩,アクチノ閃石-タルク岩などが認められる.
Atg蛇紋岩は,Block-in-matrix構造やそれに重複するanastomosing面構造が発達する.Block-in-matrix構造は,細粒Atg集合体からなるブロックと,粗粒な板状Atgのinterpenetrating組織およびそれを包む変成Olからなる基質で構成され,Hirauchi et al. (2021)の示した組織と変成Olの有無を除けば同様である.ブロックのべき乗サイズ分布のフラクタル次元も三波川変成帯のものと類似する.基質にのみ変成Olと粗粒かつランダムなAtgが存在することから,Block-in-matrix構造はBrc脱水反応に伴う単発の水圧破砕によるものと考えられる.External fluidによる周期的な流体圧上昇(Hirauchi et al., 2021)による破砕構造もあるかもしれないが,現時点では識別できていない.また,面構造の発達するAtg蛇紋岩では,微小なBrc脈が剪断面を形成していることがBSE像観察で認識でき,Atg蛇紋岩の延性変形において極少量のBrcの存在が重要であること(Kawahara et al., 2016)を支持する.Brcは流体の溶存シリカと反応して容易に失われるため,Atgのみからなる剪断帯であってもその形成時にBrcが存在した可能性を考慮する必要があるかもしれない.蛇紋岩の変形構造の重複関係と鉱物組合せの安定性から,最終的なBrc剪断面の形成を伴う変形(Top-to-Wの剪断センスが支配的)は後退的にBrcが生じていることからD2に関係づけられ,Block-in-matrix構造の形成や泥質片岩に取り込まれたのはそれ以前である.Atg蛇紋岩が脆性~準延性変形を示すのに対し,交代岩の緑泥石岩は常に片理と微細褶曲の発達した延性変形を示している.多くの研究で指摘されているように,Atg蛇紋岩は交代作用により緑泥石またはタルクが形成されると,沈み込み境界のレオロジー変化に大きく影響するであろう.
文献:
Eto and Endo (2020) JMPS, 115, 416-427.
Kawahara et al. (2016) Lithos, 254, 53-66.
Hirauchi et al. (2021) EPSL, 576, 117232.
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