講演情報
[R8-05]蘇魯超高圧エクロジャイト中のオンファス輝石が示す含水特性とその岩石学的意義
*菊地 泰生1、田口 知樹2、榎並 正樹3 (1. 早稲田大・理工、2. 早稲田大・教育、3. 名古屋大)
キーワード:
超高圧エクロジャイト、オンファス輝石、蘇魯帯、フーリエ変換赤外分光法、含水量
名目上無水鉱物(NAMs; Nominally Anhydrous Minerals)は、その結晶構造中にOH結合として微量の水を保持し、含水鉱物の安定領域を超えた地下深部への水輸送に寄与することから注目を集めている(e.g. Rossman, 2006 RMG)。NAMsの中でもオンファス輝石は含水性の比較的高い鉱物であるが、その含水量は鉱物化学組成や変成条件など様々な要因で変動する可能性が示唆されている(Skogby et al., 2016 EJM)。しかし、天然オンファス輝石を対象に、岩相や鉱物組織の特徴と含水量との関係性を評価した研究例は少ない。本研究では超高圧エクロジャイト中のオンファス輝石の含水特性を明確にすることを目的に、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いたIRスペクトル及び含水量の検証を行った。
研究試料は中国東部蘇魯帯楊庄地域に産する超高圧エクロジャイトであり、そのピーク変成条件はPressure/Temperature = 3.1 GPa/660–725°Cと推定されている(Taguchi et al., 2016 JMG)。本研究では、オンファス輝石に富むエクロジャイト2試料(試料番号:95ZYh、95ZYg)、及び灰簾石に富みオンファス輝石が比較的乏しいエクロジャイト1試料(試料番号:95ZYa)の計3試料に着目した。試料毎に量比は異なるが、鉱物組み合わせとしてオンファス輝石+ザクロ石+SiO2相に加え、灰簾石±藍晶石±白雲母±角閃石±ルチルが認められる。オンファス輝石に富むエクロジャイト2試料では、基質のオンファス輝石は比較的自形的な形状をなす。一方、灰簾石に富む試料では、多くのオンファス輝石はその縁辺部にシンプレクタイトが発達する。EPMA分析の結果、全試料共通してオンファス輝石に明瞭な組成累帯構造は認められず、試料間で明確な組成差も示さない(95ZYa; XJd = 0.40–0.48、95ZYg; XJd = 0.40–0.48、95ZYh; XJd = 0.40–0.45)。
各試料から両面研磨片を作成し、顕微FT-IR装置を用いて赤外分光分析(透過法)を実施した。取得したIRスペクトルに対して、3800–3000 cm-1の範囲でベースライン補正及びピークフィッティングを行った。含水量はLambert-Beerの法則に従って算出したが、定量化の際に用いる積分モル吸光係数には様々な値が提案されている。本研究では二次イオン質量分析により較正された積分モル吸光係数(83400 L/mol•cm2 ; Katayama et al., 2006 Lithos)を採用した。本研究では、オンファス輝石のIRスペクトルとして3639–3609 cm-1、3522–3503 cm-1、3460–3431 cm-1にOH結合由来の吸収ピークが確認された。オンファス輝石に富む2試料(95ZYg、95ZYh)の平均含水量はそれぞれ200 ppm (µg/g)、231 ppm (µg/g)であった。一方、灰簾石に富む1試料(95ZYa)の平均含水量は279 ppm (µg/g)とやや高い値を示した。
今回、岩相の違いに対応して、オンファス輝石の含水量に系統的な差が認められた。特に、灰簾石に富むエクロジャイトでは、オンファス輝石の含水量が相対的に高い傾向を示した。これはエクロジャイトの構成鉱物種の違いが、各岩相の透水性や流体保持特性に差異を生み、流体浸透の度合いにも影響を及ぼした可能性が示唆される。実際、局所的な流体浸透の影響により、同一エクロジャイト岩体内においてもオンファス輝石含水量が異なる研究例も報告されている(e.g. Wang et al., 2018 JMG)。オンファス輝石の含水量は単にその値を評価するだけでなく、岩石学的特徴と組み合わせ解釈することが重要と考えられる。このような視点に基づく議論は、プレート収束境界における流体の存在様式や浸透プロセスの理解を深める手掛かりになると期待される。
研究試料は中国東部蘇魯帯楊庄地域に産する超高圧エクロジャイトであり、そのピーク変成条件はPressure/Temperature = 3.1 GPa/660–725°Cと推定されている(Taguchi et al., 2016 JMG)。本研究では、オンファス輝石に富むエクロジャイト2試料(試料番号:95ZYh、95ZYg)、及び灰簾石に富みオンファス輝石が比較的乏しいエクロジャイト1試料(試料番号:95ZYa)の計3試料に着目した。試料毎に量比は異なるが、鉱物組み合わせとしてオンファス輝石+ザクロ石+SiO2相に加え、灰簾石±藍晶石±白雲母±角閃石±ルチルが認められる。オンファス輝石に富むエクロジャイト2試料では、基質のオンファス輝石は比較的自形的な形状をなす。一方、灰簾石に富む試料では、多くのオンファス輝石はその縁辺部にシンプレクタイトが発達する。EPMA分析の結果、全試料共通してオンファス輝石に明瞭な組成累帯構造は認められず、試料間で明確な組成差も示さない(95ZYa; XJd = 0.40–0.48、95ZYg; XJd = 0.40–0.48、95ZYh; XJd = 0.40–0.45)。
各試料から両面研磨片を作成し、顕微FT-IR装置を用いて赤外分光分析(透過法)を実施した。取得したIRスペクトルに対して、3800–3000 cm-1の範囲でベースライン補正及びピークフィッティングを行った。含水量はLambert-Beerの法則に従って算出したが、定量化の際に用いる積分モル吸光係数には様々な値が提案されている。本研究では二次イオン質量分析により較正された積分モル吸光係数(83400 L/mol•cm2 ; Katayama et al., 2006 Lithos)を採用した。本研究では、オンファス輝石のIRスペクトルとして3639–3609 cm-1、3522–3503 cm-1、3460–3431 cm-1にOH結合由来の吸収ピークが確認された。オンファス輝石に富む2試料(95ZYg、95ZYh)の平均含水量はそれぞれ200 ppm (µg/g)、231 ppm (µg/g)であった。一方、灰簾石に富む1試料(95ZYa)の平均含水量は279 ppm (µg/g)とやや高い値を示した。
今回、岩相の違いに対応して、オンファス輝石の含水量に系統的な差が認められた。特に、灰簾石に富むエクロジャイトでは、オンファス輝石の含水量が相対的に高い傾向を示した。これはエクロジャイトの構成鉱物種の違いが、各岩相の透水性や流体保持特性に差異を生み、流体浸透の度合いにも影響を及ぼした可能性が示唆される。実際、局所的な流体浸透の影響により、同一エクロジャイト岩体内においてもオンファス輝石含水量が異なる研究例も報告されている(e.g. Wang et al., 2018 JMG)。オンファス輝石の含水量は単にその値を評価するだけでなく、岩石学的特徴と組み合わせ解釈することが重要と考えられる。このような視点に基づく議論は、プレート収束境界における流体の存在様式や浸透プロセスの理解を深める手掛かりになると期待される。
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