講演情報
[R8-10]東南極リュツォ・ホルム岩体ルンドボークスヘッタの石灰珪質グラニュライトから解釈する変成作用における流体条件
*阿部 こよみ1、Connolly James2、外田 智千3、Sajeev Krishnan4、Satish-Kumar Madhusoodhan1 (1. 新潟大学、2. チューリッヒ工科大学、3. 国立極地研究所、4. インド理科大学院)
キーワード:
石灰珪質岩、P-T-fluid条件、リュツォ・ホルム岩体
石灰珪質岩は,その鉱物記録がグラニュライト相の岩石における流体との相互作用を記録しているため,温度–圧力–流体条件の履歴を復元する上で重要な役割を果たす(e.g. Dasgupta and Pal, 2005; Satish-Kumar et al., 2006).石灰珪質岩は東南極リュツォ・ホルム岩体ルンドボークスヘッタからも産出することが報告されており,温度–圧力–流体進化が議論されている(Satish-Kumar et al., 2006).しかし鉱物の組成や非平衡組織と流体の組成変化を結びつけた,変成ピーク時から後退変成時までの一連の理解は未だ課題として残っている.そこで本研究では,熱力学データの拡充により急速に発展を続けている相平衡モデリングと,石灰珪質岩の鉱物反応の解析を行うことによって,流体の組成変化に着目した温度–圧力–流体進化を議論することを目的とする.さらに相平衡モデリングでは,二価鉄および三価鉄を系成分として考慮することで,鉄の酸化に関わる酸素状態の評価が可能になるようなモデルを構築した.
ルンドボークスヘッタが属するリュツォ・ホルム岩体は高温から超高温変成作用を受けた地域であり,北東部の角閃岩相から南西部のグラニュライト相へと変化し,ルンドボークスヘッタにて最高変成度を迎えたことが知られている.その温度圧力条件は多くの研究によって議論されており,ピーク変成条件は>900°C,10–13 kbarであると推定されている(e.g. Suzuki et al., 2025).本研究では,両輝石片麻岩中にブロック状を呈して産出する石灰珪質岩をサンプルとして用いた.
ルンドボークスヘッタに産する石灰珪質岩のブロックは主にGrt+Cpx+Scp+Pl+Qz の鉱物組み合わせを示し,一部方解石や角閃石を含んでいる.鉱物モードにより3つのドメイン:Grt-absentドメイン,Scp-richドメイン,Pl-richドメインに分割することができ,後者2つのドメインではスカポライトと斜長石に顕著なモード差が認められる.また一部,コロナ状を示すガーネットが認められた.化学組成分析の結果からガーネットはグロッシュラーからアンドラダイトの固溶体組成を示し,大部分のガーネットはグロッシュラーに富むが,コロナ状ガーネットではFe3+に富むものが多く幅広い組成変化が見られた.
Scp-richドメインとPl-richドメインのそれぞれに対して相平衡モデリングを行った結果,両ドメインにおいて先行研究で示された温度圧力範囲と整合的な結果が得られた.このことから,石灰珪質岩とそれを包有する母岩が同一条件下で変成作用を被ったことが考えられる.また温度–フガシティー図からは,3つのドメインがそれぞれ異なったfCO2条件下で形成されたことが示唆され,変成ピーク時には,石灰珪質岩ブロック内において数cmスケールでのfCO2の空間的な不均一性があったことが考えられる.グロッシュラー–アンドラダイト固溶体組成をもつガーネットの形成にはfO2が重要な変数になりうることがDasgupta and Pal (2005)により示されており,本研究でも流体組成としての酸素を考慮した後退変成作用の議論が必要である.発表では得られた後退変成作用に関する組織観察結果を踏まえ,後退変成時の流体条件までも議論する.
Dasgupta and Pal. (2005) Journal of Petrology, 46, 1045–1076.
Satish-Kumar et al. (2006) Polar Geoscience, 19, 37–61.
Suzuki et al. (2025) Journal of Metamorphic Geology, 43, 467–495.
ルンドボークスヘッタが属するリュツォ・ホルム岩体は高温から超高温変成作用を受けた地域であり,北東部の角閃岩相から南西部のグラニュライト相へと変化し,ルンドボークスヘッタにて最高変成度を迎えたことが知られている.その温度圧力条件は多くの研究によって議論されており,ピーク変成条件は>900°C,10–13 kbarであると推定されている(e.g. Suzuki et al., 2025).本研究では,両輝石片麻岩中にブロック状を呈して産出する石灰珪質岩をサンプルとして用いた.
ルンドボークスヘッタに産する石灰珪質岩のブロックは主にGrt+Cpx+Scp+Pl+Qz の鉱物組み合わせを示し,一部方解石や角閃石を含んでいる.鉱物モードにより3つのドメイン:Grt-absentドメイン,Scp-richドメイン,Pl-richドメインに分割することができ,後者2つのドメインではスカポライトと斜長石に顕著なモード差が認められる.また一部,コロナ状を示すガーネットが認められた.化学組成分析の結果からガーネットはグロッシュラーからアンドラダイトの固溶体組成を示し,大部分のガーネットはグロッシュラーに富むが,コロナ状ガーネットではFe3+に富むものが多く幅広い組成変化が見られた.
Scp-richドメインとPl-richドメインのそれぞれに対して相平衡モデリングを行った結果,両ドメインにおいて先行研究で示された温度圧力範囲と整合的な結果が得られた.このことから,石灰珪質岩とそれを包有する母岩が同一条件下で変成作用を被ったことが考えられる.また温度–フガシティー図からは,3つのドメインがそれぞれ異なったfCO2条件下で形成されたことが示唆され,変成ピーク時には,石灰珪質岩ブロック内において数cmスケールでのfCO2の空間的な不均一性があったことが考えられる.グロッシュラー–アンドラダイト固溶体組成をもつガーネットの形成にはfO2が重要な変数になりうることがDasgupta and Pal (2005)により示されており,本研究でも流体組成としての酸素を考慮した後退変成作用の議論が必要である.発表では得られた後退変成作用に関する組織観察結果を踏まえ,後退変成時の流体条件までも議論する.
Dasgupta and Pal. (2005) Journal of Petrology, 46, 1045–1076.
Satish-Kumar et al. (2006) Polar Geoscience, 19, 37–61.
Suzuki et al. (2025) Journal of Metamorphic Geology, 43, 467–495.
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