講演情報
[R8-11]東南極・リュツォ-ホルム岩体西部の珪質変成岩に記録された変成年代とその意義
*中野 伸彦1、馬場 壮太郎2、加々島 慎一3、Wahyuandari Fransiska, A.C.1 (1. 九州大学、2. 琉球大学、3. 山形大学)
キーワード:
珪長質片麻岩、部分溶融、ジルコンU-Pb年代、Hf同位体、リュツォ-ホルム岩体
東南極リュツォ-ホルム岩体は主に高度変成岩から構成され,その分布域は東西400 km以上におよぶ.岩体中央〜西部にかけて分布するグラニュライト相の変成岩類は,ゴンドワナ大陸形成時の大陸衝突によって形成されたと考えられているが,その詳細なテクトニクスは明らかとなっていない.その1つの原因として,変成年代の多様性がある.これまで報告された変成年代は,大局的には約550 Maをしめすが,約620 Maから510 Maまでの年代幅がある(Dunkley et al., 2020, Polar Sci.).この年代幅が生じる要因やそれぞれの年代で生じたイベント,岩相による年代の違いや地域性の有無など,現状では明らかとなっていないことが多い.Nakano et al. (2025, Gondwana Res.) は,岩体西部のベルナバネから1.0, 1.9, 2.5 Gaの原岩形成年代を明らかにした.さらに,1.0 Gaの岩石が527±3 Maの変成年代をしめすのに対して,1.9/2.5 Gaの原岩年代をしめす珪長質/苦鉄質/泥質変成岩,すべてが幅広い変成年代の幅をしめすこと,その変成パルスが593±4, 562±4, 531±3 Maであることを報告した.この結果により,原岩年代の違いにより変成年代が異なること,幅広い年代には変成パルスが存在することを指摘している.
さらに近年,岩体西部のルンドボークスヘッタに産する超高温変成岩を用いたペトロクロノロジー研究も行われてきている.Durgalakshmi et al. (2021, J. Petrol) は,3つの変成ステージの年代 (593 Ma, 554 Ma, 531 Ma) を,それぞれ昇温期,ピーク,後退変成作用と解釈した.これには明確な根拠は示されなかった一方,Suzuki et al. (2025, JMG) はザクロ石とジルコンの微量元素組成や包有物から,564±10 Maを昇温期の部分溶融,532±5 Maをピーク変成年代の時期と解釈した.これらの成果は,テクトニクスを考える上で重要な制約を与えるが,限られた露岩のそれぞれ1試料の解析結果であり,岩体全体への制約には他の露岩域や異なる岩相を用いた検証が必要である.本研究では,岩体西部のストランニッバ,ルンドボークスヘッタ,インステクレパネの珪長質片麻岩について議論する.
珪長質片麻岩は,ストランニッバ,ルンドボークスヘッタではこれまで輝石片麻岩として記載され,一般に直方輝石と単斜輝石を含む.インステクレパネ南部のザクロ石−黒雲母片麻岩も解析に用いた.さらに,全露岩域でまれに観察される優白質片麻岩についても対象とした.年代測定を実施した試料には1試料を除いて,インヘリテッドコアをもつジルコンが含まれ,これらのインヘリテッドコアや一部のリムはディスコーダントを形成し,約2.5 Gaの上部切片年代と0.5–0.6 Gaの下部切片年代を示す.
珪長質片麻岩の中で,ジルコンの内部組織を明確に区分できる試料はルンドボークスヘッタの2試料であり,これらのCL像は中心部からインヘリテッドコア,暗くTh/U比が低いマントル,明るくTh/U比が高いリムに区分できる.マントルの年代は非常にバラつくが,594±20 Maと601±13 Maをしめした.明るいリムは約530 Maをしめす.この珪長質片麻岩のリムの年代(約530 Ma)と同様の年代は,ストランニッバとインステクレパネの優白質片麻岩4試料のジルコンリムからも得られた.これらの優白質片麻岩のジルコンのコアやマントルはTh/U比は様々であるが,オシラトリー累帯構造を示す場合があり,3試料から得られた年代は,570±7 Ma, 575±8 Ma, 581±7 Maであった.インヘリテッドコアを含まず,顕著なオシラトリー累帯構造をしめすストランニッバの優白質片麻岩のジルコンからは均質な年代が得られ,その年代は570±4 Maをしめした.
約2.5 GaのインヘリテッドコアのHf同位体比はイプシロン値が+3~+8に集中するが,オシラトリー累帯構造を示す優白質片麻岩中のジルコンは-30~-20をしめす.両者はほぼ同様のモデル年代をしめすことから,珪質片麻岩の部分溶融により優白質片麻岩の原岩となるメルトが形成されたと考えて良い.
以上の結果から,リュツォ-ホルム岩体西部の変成作用は600 Ma頃には始まっており,約570 Maには珪長質片麻岩にもSuzuki et al. (2025) が報告したような部分溶融が生じていたことが明らかとなった.産状からその部分溶融現象は,局所的なものではなく優白質花崗岩を形成するような比較的大規模な可能性がある.また,岩体西部における最終的な変成パルスは明確に530 Maをしめし,1つのキーとなる造山運動としてその東西延長の解析が期待される.
さらに近年,岩体西部のルンドボークスヘッタに産する超高温変成岩を用いたペトロクロノロジー研究も行われてきている.Durgalakshmi et al. (2021, J. Petrol) は,3つの変成ステージの年代 (593 Ma, 554 Ma, 531 Ma) を,それぞれ昇温期,ピーク,後退変成作用と解釈した.これには明確な根拠は示されなかった一方,Suzuki et al. (2025, JMG) はザクロ石とジルコンの微量元素組成や包有物から,564±10 Maを昇温期の部分溶融,532±5 Maをピーク変成年代の時期と解釈した.これらの成果は,テクトニクスを考える上で重要な制約を与えるが,限られた露岩のそれぞれ1試料の解析結果であり,岩体全体への制約には他の露岩域や異なる岩相を用いた検証が必要である.本研究では,岩体西部のストランニッバ,ルンドボークスヘッタ,インステクレパネの珪長質片麻岩について議論する.
珪長質片麻岩は,ストランニッバ,ルンドボークスヘッタではこれまで輝石片麻岩として記載され,一般に直方輝石と単斜輝石を含む.インステクレパネ南部のザクロ石−黒雲母片麻岩も解析に用いた.さらに,全露岩域でまれに観察される優白質片麻岩についても対象とした.年代測定を実施した試料には1試料を除いて,インヘリテッドコアをもつジルコンが含まれ,これらのインヘリテッドコアや一部のリムはディスコーダントを形成し,約2.5 Gaの上部切片年代と0.5–0.6 Gaの下部切片年代を示す.
珪長質片麻岩の中で,ジルコンの内部組織を明確に区分できる試料はルンドボークスヘッタの2試料であり,これらのCL像は中心部からインヘリテッドコア,暗くTh/U比が低いマントル,明るくTh/U比が高いリムに区分できる.マントルの年代は非常にバラつくが,594±20 Maと601±13 Maをしめした.明るいリムは約530 Maをしめす.この珪長質片麻岩のリムの年代(約530 Ma)と同様の年代は,ストランニッバとインステクレパネの優白質片麻岩4試料のジルコンリムからも得られた.これらの優白質片麻岩のジルコンのコアやマントルはTh/U比は様々であるが,オシラトリー累帯構造を示す場合があり,3試料から得られた年代は,570±7 Ma, 575±8 Ma, 581±7 Maであった.インヘリテッドコアを含まず,顕著なオシラトリー累帯構造をしめすストランニッバの優白質片麻岩のジルコンからは均質な年代が得られ,その年代は570±4 Maをしめした.
約2.5 GaのインヘリテッドコアのHf同位体比はイプシロン値が+3~+8に集中するが,オシラトリー累帯構造を示す優白質片麻岩中のジルコンは-30~-20をしめす.両者はほぼ同様のモデル年代をしめすことから,珪質片麻岩の部分溶融により優白質片麻岩の原岩となるメルトが形成されたと考えて良い.
以上の結果から,リュツォ-ホルム岩体西部の変成作用は600 Ma頃には始まっており,約570 Maには珪長質片麻岩にもSuzuki et al. (2025) が報告したような部分溶融が生じていたことが明らかとなった.産状からその部分溶融現象は,局所的なものではなく優白質花崗岩を形成するような比較的大規模な可能性がある.また,岩体西部における最終的な変成パルスは明確に530 Maをしめし,1つのキーとなる造山運動としてその東西延長の解析が期待される.
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