講演情報
[R8-P-03]亀裂を充填する繊維状のAl2SiO5鉱物と細粒石英集合体から制約する後退変成期の流体流入に対する示唆:東南極セール・ロンダーネ山地の例
*東野 文子1、河上 哲生1、池田 勇人1、足立 達朗2、宇野 正起3 (1. 京都大学、2. 九州大学、3. 東京大学)
キーワード:
フィブロライト、繊維状の藍晶石、流体流入、酸性流体
変成作用における物質移動や化学反応は、流体や元素拡散が関与することで起こる。フィブロライトは、一般的にAlに富む泥質岩中に産する繊維状または細柱状結晶の集合体をなした珪線石を指し、たびたび柱状のAl2SiO5鉱物や黒雲母のリムを置換して産する。黒雲母のフィブロライト化は高aHCl流体の流入が要因とされる [1]。また、長石・菫青石・ザクロ石の粒界に産するフィブロライトも報告されている [2]。ここで特筆すべき点は、先行研究の「フィブロライト」の多くは、偏光顕微鏡観察に基づいたフィブロライト状組織から珪線石と同定されており、ラマン分光分析がおこなわれていないということである。そこで、東南極セール・ロンダーネ山地に産する繊維状のAl2SiO5鉱物集合体のラマン分光分析をおこなったところ、藍晶石と珪線石が見いだされた。本研究では、これらのAl2SiO5鉱物の成因について議論する。
東南極セール・ロンダーネ山地は、東アフリカ造山帯 (EAO; 750-620 Ma) と、それに続くクンガ造山帯 (570-530 Ma) が見かけ上交差する場所に位置しており [3]、東西約200kmにわたり高度変成岩類と火成岩類が広く露出する。同山地は、650-600 Maにピーク変成作用、590-530 Ma に紅柱石安定領域の後退変成作用を被ったとされてきた [4]。しかしそれに一致しない温度圧力履歴の報告も出てきており、同山地の形成テクトニクスは再考の機運が高まっている [e.g., 5, 6, 7]。
本研究では、繊維状のAl2SiO5鉱物集合体を含む泥質変成岩3試料を扱った。同山地西部パーレバンデの試料はザクロ石―黒雲母―珪線石片麻岩であり、繊維状の藍晶石と細粒石英の集合体が斜長石およびカリ長石中の亀裂を充填する組織が観察された。中央部ブラットニーパネに産する試料はザクロ石―珪線石片麻岩であり、(i)繊維状の藍晶石・珪線石と細粒石英の集合体が斜長石およびカリ長石中の亀裂を、(ii)繊維状の藍晶石と細粒石英の集合体が菫青石中の亀裂を、それぞれ充填する組織が観察された。中央部バークマンズカンペンの試料は珪線石―ザクロ石―黒雲母片麻岩であり、繊維状の藍晶石と細粒石英の集合体が斜長石中の亀裂を充填する組織が観察された。各試料の詳細な岩石記載は [8] を参照されたい。
[9] は酸性流体の流入により、長石からアルカリ金属・アルカリ土類金属を溶脱し、細粒なAl2SiO5鉱物と石英集合体を形成する反応を提案した。本研究で観察された繊維状のAl2SiO5鉱物と細粒石英集合体のモード組成は、[9] の反応式を各試料の長石の化学組成に適用した場合のAl2SiO5鉱物と石英のモード組成と矛盾しない。また、菫青石中の亀裂を充填する繊維状の藍晶石と細粒石英集合体のモード組成は、菫青石と酸性流体が反応して藍晶石と石英を形成する反応のモード組成とよく一致する。したがって、本研究で見いだされた繊維状のAl2SiO5鉱物と細粒石英の集合体は、後退変成期に藍晶石安定領域あるいは珪線石と藍晶石の共存領域で、酸性流体が亀裂に流入することで形成されたと考えられる。亀裂は脆性破壊で生じていることから、長石の脆性―延性境界である400-600℃ [10] よりも低温で流体流入は起きたと言える。セール・ロンダーネ山地では、広範囲から花崗岩質脈から派生した亀裂・せん断帯に沿った岩石-流体反応に伴う反応縁や鉱物脈が報告されている [11]。同山地は約560-550 Maに伸張テクトニクス下でポストキネマティックな火成活動が起きたとされる[e.g., 12]。したがって、本研究で見いだされた酸性流体も火成起源とみなすと、流体流入は560Ma以降に起きた可能性が高い。
引用文献[1] Kerrick 1987 Am. Min. [2] Vernon & Flood 1977 CMP [3] Meert 2003 Tectonophysics [4] Osanai et al. 2013 Precam. Res. [5] Kawakami et al. 2017 Lithos [6] Tsubokawa et al. 2017 JMPS [7] Higashino et al. 2023 Gondwana Res. [8] Higashino et al. 2025 Polar Sci. [9] Ague 1994 AJS [10] Passchier & Trouw 2005 Microtectonics, Springer [11] Kawakami et al. 2025 Polar Sci. [12] Owada et al. 2025 Polar Sci.
東南極セール・ロンダーネ山地は、東アフリカ造山帯 (EAO; 750-620 Ma) と、それに続くクンガ造山帯 (570-530 Ma) が見かけ上交差する場所に位置しており [3]、東西約200kmにわたり高度変成岩類と火成岩類が広く露出する。同山地は、650-600 Maにピーク変成作用、590-530 Ma に紅柱石安定領域の後退変成作用を被ったとされてきた [4]。しかしそれに一致しない温度圧力履歴の報告も出てきており、同山地の形成テクトニクスは再考の機運が高まっている [e.g., 5, 6, 7]。
本研究では、繊維状のAl2SiO5鉱物集合体を含む泥質変成岩3試料を扱った。同山地西部パーレバンデの試料はザクロ石―黒雲母―珪線石片麻岩であり、繊維状の藍晶石と細粒石英の集合体が斜長石およびカリ長石中の亀裂を充填する組織が観察された。中央部ブラットニーパネに産する試料はザクロ石―珪線石片麻岩であり、(i)繊維状の藍晶石・珪線石と細粒石英の集合体が斜長石およびカリ長石中の亀裂を、(ii)繊維状の藍晶石と細粒石英の集合体が菫青石中の亀裂を、それぞれ充填する組織が観察された。中央部バークマンズカンペンの試料は珪線石―ザクロ石―黒雲母片麻岩であり、繊維状の藍晶石と細粒石英の集合体が斜長石中の亀裂を充填する組織が観察された。各試料の詳細な岩石記載は [8] を参照されたい。
[9] は酸性流体の流入により、長石からアルカリ金属・アルカリ土類金属を溶脱し、細粒なAl2SiO5鉱物と石英集合体を形成する反応を提案した。本研究で観察された繊維状のAl2SiO5鉱物と細粒石英集合体のモード組成は、[9] の反応式を各試料の長石の化学組成に適用した場合のAl2SiO5鉱物と石英のモード組成と矛盾しない。また、菫青石中の亀裂を充填する繊維状の藍晶石と細粒石英集合体のモード組成は、菫青石と酸性流体が反応して藍晶石と石英を形成する反応のモード組成とよく一致する。したがって、本研究で見いだされた繊維状のAl2SiO5鉱物と細粒石英の集合体は、後退変成期に藍晶石安定領域あるいは珪線石と藍晶石の共存領域で、酸性流体が亀裂に流入することで形成されたと考えられる。亀裂は脆性破壊で生じていることから、長石の脆性―延性境界である400-600℃ [10] よりも低温で流体流入は起きたと言える。セール・ロンダーネ山地では、広範囲から花崗岩質脈から派生した亀裂・せん断帯に沿った岩石-流体反応に伴う反応縁や鉱物脈が報告されている [11]。同山地は約560-550 Maに伸張テクトニクス下でポストキネマティックな火成活動が起きたとされる[e.g., 12]。したがって、本研究で見いだされた酸性流体も火成起源とみなすと、流体流入は560Ma以降に起きた可能性が高い。
引用文献[1] Kerrick 1987 Am. Min. [2] Vernon & Flood 1977 CMP [3] Meert 2003 Tectonophysics [4] Osanai et al. 2013 Precam. Res. [5] Kawakami et al. 2017 Lithos [6] Tsubokawa et al. 2017 JMPS [7] Higashino et al. 2023 Gondwana Res. [8] Higashino et al. 2025 Polar Sci. [9] Ague 1994 AJS [10] Passchier & Trouw 2005 Microtectonics, Springer [11] Kawakami et al. 2025 Polar Sci. [12] Owada et al. 2025 Polar Sci.