講演情報
[S1-08]島弧由来マントル物質:Luzon火山弧北部、台湾Lanyu島産超苦鉄質捕獲岩の岩石学的特徴
*森下 知晃1,5、古口 航1、荒木 拓真1、秋澤 紀克2、田村 明弘1、針金 由美子3、水上 知行1、谷 健一郎4 (1. 金沢大学、2. 広島大学、3. 産業技術総合研究所、4. 国立科学博物館、5. 海洋研究開発機構)
キーワード:
島弧下マントル、超苦鉄質岩石、捕獲岩、ルソン火山弧
プレートテクトニクスの枠組みの中で,プレート沈み込み帯におけるメルト・流体移動に伴う地下深部の岩石で起きている現象の理解が重要であると考えている.そこで,島弧火山岩類に捕獲されている超苦鉄質捕獲岩について研究を進めている。現在の島弧セッティングに噴出した火山岩類中の捕獲岩の産出例は多くはないが,西太平洋域に比較的多くの火山から捕獲岩が報告されている(Arai & Ishimaru, 2008 Jour. Petrol.).台湾東部からフィリピン北部にかけて南北に島弧火山が分布するルソン火山弧からは複数の地点からかんらん岩捕獲岩が報告されている。本発表では,ルソン火山弧北端に位置する台湾東部のLanyu島に産する超苦鉄質捕獲岩について記載岩石学的特徴を示し,他地域のかんらん岩捕獲岩との比較を行う.台湾東部のLanyu島は、玄武岩から玄武岩質安山岩質の火山岩が分布し,ジルコンのU-Pb年代測定により1.3~2.6Maの年代値が得られている(Shao et al., 2014 Terr. Atmos. Ocean. Sci.).超苦鉄質岩のサイズは数cm程度のものが多く,しばしば周囲に角閃石はんれい岩を伴う複合捕獲岩として産する.これらの超苦鉄質捕獲岩類は,ダナイト、ハルツバージャイト、レールゾライト、ウェールライト〜単斜輝石岩、ホルンブレンドかんらん岩に分類される。超苦鉄質岩は多くが粒径0.5-1mmの比較的粗粒結晶で構成され,明瞭な変形組織は観察されない.ホルンブレントかんらん岩は,丸い形状を示すかんらん石が粗粒ホルンブレンドにポイキリティックに包有されて産するという特徴を示す.ハルツバージャイトーレールゾライト系の捕獲岩の多くは,単斜輝石が濁り,クロムスピネル周囲にクロミウムに富むスピネルと斜長石(およびガラス)から構成される組織が観察されること,単斜輝石の微量元素組成から,捕獲岩として母岩に捕獲された後に母岩マグマとの反応が起きていることが示唆される。ウェールライト〜単斜輝石岩、ホルンブレンドかんらん岩中の単斜輝石が,メルト組成から結晶し,その時の微量元素の特徴を保持していると仮定し,単斜輝石―メルトの分配係数から求められるメルトの希土類元素のパターンは,母岩のパターンと類似している.ウエールライト〜単斜輝岩のような単斜輝石に富む超苦鉄質岩石は島弧起源のオフィオライトにおいて溶け残りかんらん岩類とはんれい岩類の境界部にしばしば観察される岩相に類似していることから,Lanyu島下最上部マントルにも単斜輝石に富む超苦鉄質岩石が産していることが予想される.また,ポイキリティックなホルンブレンドかんらん岩の記載岩石学的特徴は,花崗岩帯に少量伴う超苦鉄質岩体の特徴と類似しており(例えば,Itano et al., 2021 Lithos),角閃石に富む超苦鉄質岩石も島弧マントルの重要な構成物質である可能性を指摘したい.Lanyu島超苦鉄質捕獲岩は、同じルソン火山弧に属する火山(Pinatubo、Iraya)中のかんらん岩捕獲岩と比較すると角閃石の形成や二次的な直方輝石の形成(Arai et al., 2004 Jour. Petrol.; Yoshikawa et al., 2016 Lithos)などはほとんど観察されない。また流体包有物およびその母岩との反応物質の量は,IrayaやPinatuboと比較して少ない.これらの流体包有物の特徴(古口ほか,本鉱物科学会講演)などとも比較し,同一島弧における超苦鉄質捕獲岩比較研究を通して,マントル中の流体の実態やそれらの移動・反応の一般性・多様性について明らかにしていきたい.