講演情報

[1H01]人間の安全保障の視点からみた開発援助における「人の移動」とは ー Aspiration-Capability拡張モデルの提案

*李 千晶1、*齋藤  聖子2、*折田 朋美2 (1. 独立行政法人 国際開発協力機構(JICA)、2. JICA緒方貞子平和開発研究所)

キーワード:

国際的な人の移動、人の移動と開発、Aspiration-Capabilityモデル

1.企画の背景
 21世紀において国際移民は2億8,100万人(世界人口の3.6%)に達し、その複雑性は増大している。人の移動は、移民や難民の出身国の紛争や社会経済状況、移動先・経由国の政策と密接に関連する複雑な現象である。「誰にとって、何が望ましい状況か」という問いへの一面的な判断は困難であり、短期的政策や単一国の取り組みでは限界がある。de Haasのaspiration-capability理論は、移動する人々をエージェンシーとして捉え、開発の進展に伴い変化するaspiration-capabilityを示し、aspirationもcapabilityも欠く「黙認的不動」層や、非正規移動リスクを抱える「非自発的不動」層など、いままで政策で見過ごされてきた脆弱層を可視化した。しかし、本理論は現象説明にとどまり、具体的な開発支援の介入方法は示されていない。本ラウンドテーブルでは、de Haasの理論を人間の安全保障の視点から再構築する。人間の安全保障は、個人の命・暮らし・尊厳を中心に据え、保護とエンパワメント、連帯を通じてこれらを実現する。この統合的枠組みにより、移動パターンに応じた「適切なタイミングで適切な人に適切な介入を行う」方法論の構築を目指す。
2.主要な論点
 第一に、各移動パターンにおける保護とエンパワメントの最適バランスとは。第二に、最も脆弱でありながら見過ごされがちな「黙認的不動」「非自発的不動」層への介入戦略とは。第三に、送出国・通過国・受入国・国際機関の連携による効果的な支援システムとは。
3.期待される成果
 de Haasの理論的枠組みを人間の安全保障の視点から発展させ、様々な移動パターンに基づく差別化された支援アプローチ保護・エンパワメントの動的均衡モデルを提示する。この応用モデルにより、移動理論に新たな洞察と実践的付加価値を提供し、人びとの安全保障を担保しながら、人の移動を開発機会として最大化する包括的な開発協力の方向性を示す。本企画により持続可能な移動ガバナンスの実現に向けた具体的指針を提供することが期待される。

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