講演情報

[1I07]災害時の緊急現金給付が貧困層のフード・セキュリティに与える影響―バングラデシュにおける自然実験分析―

*倉田 正充1 (1. 上智大学)

キーワード:

自然災害、現金給付、フードセキュリティ、自然実験、バングラデシュ

現在の国際社会では、気候変動に伴うサイクロンや洪水などの自然災害が激甚化しており、特に影響を受けやすい貧困層のフード・セキュリティの確保が喫緊の課題となっている。本研究では、自然災害リスクの高いバングラデシュにおいて、日本の国際協力事業「金融包摂強化プロジェクト」の一環として試行された災害時の緊急現金給付の効果を検証する。同事業では、マイクロファイナンス機関(MFI)を通じ、各オフィスの50km圏内にサイクロンが侵入した直後に顧客全員へ一律の現金給付を支給するプログラムが導入された。本研究の目的は、これが災害直後の食料消費削減や借入増加といった負の影響をどれほど緩和したかを明らかにすることである。
 本研究では、同プログラムに参加する7つのMFIの顧客(約15,000世帯)から層化抽出で無作為に選んだ約2,900世帯を対象に、2022年から2024年にかけて3回の調査を実施した。分析方法は、サイクロンの経路により被災と現金給付の有無が外生的に決まる自然実験的状況を利用しつつ、様々な共変量をコントロールした回帰分析である。アウトカム指標には、食料消費削減や借入などのリスク対処戦略の採用状況と、食品群別の消費削減を用いた。
 分析の結果、緊急現金給付は被災世帯のフード・セキュリティへの負の影響を大きく緩和することが確認された。特に食料消費の削減や借入といった行動を抑制し、栄養面で重要な食品群の消費維持に寄与していた。効果はサイクロンによって必ずしも一様ではなかったが、全体として短期的な困難を軽減する傾向が示されたと言える。これにより、少額であっても迅速な現金給付が災害直後のフード・セキュリティ確保に有効であり、今後の災害対応型金融サービスの設計や、関連する国際協力事業の展開に重要な示唆を与えると考えられる。

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