講演情報

[1I08]パレスチナ西岸地区における農業技術普及の実証分析―農家の技術採用行動と分離壁・イスラエル入植地による障壁

*中村 友紀1 (1. 日本工営株式会社)

キーワード:

パレスチナ、農業技術普及、技術採用、分離壁、イスラエル入植地

本研究は、紛争影響地域における農家行動の普遍的傾向を明らかにすることを目的とし、パレスチナ西岸地区を対象に実証開発経済学の視点から分析を行った。紛争は地域社会の経済活動や制度構築に深刻な影響を及ぼすが、影響地域は限定され、データ収集の困難さから先行研究は少ない。西岸地区は1948年の第一次中東戦争以来、数次の戦争と占領を経て、1995年のオスロ合意IIで暫定自治が合意されたものの、2025年時点でも占領が継続している。西岸地区では紛争と占領により農業発展が阻害されており、パレスチナ自治政府は影響を受けた農家への支援として農業技術普及を実施しているが、その効果の定量分析はほとんど行われていない。
本研究では、農業への影響が特に顕著な分離壁とイスラエル入植地が農業技術普及の実施を阻害する一方で、農業技術普及はパレスチナ人農家の技術採用を促進するとの仮説を設定し、検証を行った。農業技術普及の受益はランダムに決定されず、農家の意思による自己選択バイアスが存在する可能性があるため、傾向スコアマッチング(PSM)を用いて、技術採用に及ぼす農業技術普及の処置効果を推計した。また、紛争の影響を定量化するため、分離壁とイスラエル入植地の位置情報を用いた。
分析の結果、自己選択バイアスを制御したうえでも、作物改良品種、有機肥料、農薬、総合的病害虫管理(IPM)の採用に対し、農業技術普及が有意な正の効果を持つことが確認された。すなわち、仮説のとおり、農業技術普及は農家の技術採用を促進する。また、分離壁やイスラエル入植地に近いほど農業技術普及を受けにくい傾向が示され、こうした障壁を踏まえた農業技術普及の促進策の必要性も示唆された。実証結果に基づき、農家行動の実態に即した農業技術普及と西岸地区の農業セクターの発展に資する政策的含意を整理した。

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