講演情報

[1J01]政府開発援助の成功要因の検証とリスク予測:事後評価データに基づく実証分析

*伊藤 雄一1 (1. 上智大学)

キーワード:

大規模言語モデル、政府開発援助(ODA)、事後評価報告書

2025年4月に国際協力機構(JICA)法の改正が行われ、より効率的かつ効果的な国際協力の実現が求められる中、日本の政府開発援助(ODA)の改善が喫緊の課題となっている。本研究では、JICAが2010年から2024年にかけて公表してきたODA事業の事後評価報告書(2,491件分)を、大規模言語モデルにより構造化したデータセットを作成することで、総合評価レーティングで示される事業の成功・失敗の要因分析と予測分析を行った。

 要因分析では、ODA事業や支援対象国に関する様々な属性を説明変数としつつ、事業開始年や評価者グループなどの固定効果もコントロールした回帰分析を行った。分析の結果、事業の効率性を引き下げる事業費・事業期間の超過が大きな失敗要因となっていることや、特定のセクターで成否が分かれることなどが明らかとなった。

 予測分析では、事業開始時点の情報をもとに、成功(総合レーティングがAまたはB)と失敗(CまたはD)の二値分類を行う機械学習モデルの作成を行い、SHAPによる特徴量の寄与度を確認した。標準的な機械学習手法であるLightGBMを用いた結果、成功・失敗の正解率は6割程度となり、事前のリスク判断として利用できる可能性があることが分かった。またSHAP分析により、事業の成否には支援対象国における公共サービスや規制の質も重要な予測因子となっていることが確認された。

 以上により、ODA事業の事後評価データを分析することで、その成功・失敗の要因を検証するのみならず、今後の事業設計段階でのリスク要因の把握や、支援対象国の制度的環境を踏まえた戦略的意思決定への活用が可能となると考えられる。

コメント

コメントの閲覧・投稿にはログインが必要です。ログイン