講演情報

[1J05]統治技法としての開発協力:近現代日本における人口動態の調整装置

*大山 貴稔1 (1. 九州工業大学)

キーワード:

開発協力、人口統治、統治技法、近現代日本、系譜学

日本では開発協力に対する国民的関心が後退している。にもかかわらず、開発協力が政策的重要性を保ち続けているのはなぜか。従来の説明――経済外交、人道主義、安全保障など――は、開発協力が帯びた統治機能を見落としてきた。
 本報告では、戦前の海外移住政策から現代の技能実習制度までを貫く人口統治の系譜を跡づけることにより、日本の開発協力政策が担ってきた統治機能を明らかにする。開発協力を人口動態の調整装置――すなわち人口の過剰・不足・偏在を国外への「協力」と銘打つ政策・制度・言説の束で管理する統治技法――として再概念化することで、開発史研究における新たな分析視角を提示する。
 研究手法としては、これまで移民史・植民地史・外交史・開発学において断片的に取り組まれてきた人口統治に関わる歴史研究の成果を統合し、相互に参照されることなく蓄積されてきた知見を系譜学的に再配置する術を採る。
 得られた知見は次の通り。 (1) 帝国的調整期(1930-60年代):「人口過剰」言説のもと海外移住・植民地開発・技術協力が三位一体となった人口統治システムの確立。 (2) 忘却的安定期(1970-90年代):人口圧解消で人口統治が不可視化するも、開発協力は「平和国家」の道徳的アイデンティティを支える装置として再機能化。 (3) 循環的再編期(2000年代以降):少子高齢化による労働力不足で人口統治が再浮上し、技能実習などを皮切りにして開発協力と移民政策が一体化。
 以上の分析を通して、開発協力が帯びた人口動態の調整装置としての機能を論証するとともに、帝国時代からの連続性の忘却が戦後の平和国家像を支えてきたという逆説を明らかにする。この視座を持つことで、JICAが外国人材受入れ及び多文化共生支援に業務を拡げるなどの現代的動向をめぐっても、構造的理解を得ることができよう。

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